研究課題/領域番号 |
19K12978
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研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
松原 薫 東京藝術大学, 大学院音楽研究科, 研究員 (50835105)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | バッハ / フォルケル / 愛好家 / 専門家 / 演奏会 / ゲッティンゲン / ドイツ / 18世紀 |
研究実績の概要 |
本研究は18世紀後半ドイツの音楽文化(特にバッハ受容)に着目し、愛好家(Liebhaber)と専門家(Kenner)が当時どのようなものとして認識されていたのか、そしてこれらの二者が音楽文化の発展にどのような役割を果たしたのかを明らかにしようとするものである。1年目にあたる2019年度の研究実績は以下の通りである。 (1)本研究が主に検討対象とするのは18世紀後半であるが、予備的考察として、18世紀前半にドイツで刊行された音楽論(マッテゾン、マールプルクの批評)や楽譜(バッハの《クラヴィーア練習曲集》)などを広く調査し、そこにおける愛好家と専門家の位置づけを整理した。また愛好家と「ギャラントム(Galant Homme)」という二つの概念の重なりについても検討した。これらの成果は『バッハと対位法の美学』(春秋社、2020年)の一部として発表した。 (2)バッハの伝記の著者として広く知られるフォルケル(1749-1818)であるが、これ以前に彼が著した『音楽理論について』、『普遍音楽史』もまた18世紀の音楽美学の重要文献である。特に『音楽理論について』は、ゲッティンゲン大学の音楽監督として「冬の演奏会」を催したフォルケルが、演奏会の聴衆の大部分を占める愛好家層の啓蒙を目的としてまとめた冊子であり、彼の愛好家観を知るための格好の手がかりとなる。この文献の読解を通じて、18世紀ドイツの音楽文化において次第に存在感を増していた愛好家の一側面について明らかにした。さらにこれとバッハ伝とを合わせて検討することにより、(フォルケルの見解に照らすならば)18世紀後半には、バッハの音楽はその難解さゆえに、どちらかといえば愛好家ではなく専門家の間で受け入れられたという示唆を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
18世紀のドイツ語文献、ならびに愛好家・専門家の用語法についての研究文献を読解することにより、予備的考察を順調に進めることができた。また本研究にとって重要な位置を占めるフォルケルの文献、およびゲッティンゲン大学で開催された演奏会に関する資料を収集し、一定の知見を引き出すことができたため。
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今後の研究の推進方策 |
音楽についての十分な専門知識を持たないとの理由から、フォルケルの文献では劣ったものと考えられた愛好家であるが、18世紀における愛好家と専門家の境界が「専門知識を持つか、持たないか」という単純なものではなかったことは、すでにいくつかの研究で指摘されている。今後はフォルケル以外の音楽論、芸術論を渉猟するとともに、実際に知識人サロンにおけるバッハ音楽の受容などを検討対象としながら、18世紀の愛好家像を浮き彫りにしていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
日本国内での文献読解を通じて当研究課題の論点を先鋭化することを優先すべく、当初予定していた資料調査のための海外出張を延期したため。
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