研究課題/領域番号 |
19K12978
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松原 薫 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 助教 (50835105)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | バッハ / ロホリッツ / フォルケル / ツェルター / シェーリング / シュヴァイツァー / ポリフォニー |
研究実績の概要 |
本研究課題4年目にあたる2022年度の研究実績は以下の通りである。 ①シュヴァイツアーの音画論に関する論文を執筆する中で、いくつか新たな課題が浮き彫りになった。そのうちの一つとして、シュヴァイツァーとシェーリングの理論に関して、作品解釈との関係も含めて読解を進めた。そしてこの問題に関しては、最終的には、18世紀以前の修辞学的伝統との連関の有無を明らかにするところまで研究を進める必要があることを確認した。 ②フォルケルとロホリッツの著述を検討し、バッハの作品が本格的に出版され始める1800年前後に、批評家たちがバッハの作品をどのように世に知らしめようとしたのかを考察した。その際に『総合音楽新聞』の創刊前後のドイツ語圏の音楽批評界の状況や、バッハのどのような作品が知名度を得ていたのかを踏まえて考察することによって、当時の状況を包括的に把握するよう努めた。検討の結果、《平均律クラヴィーア曲集》の出版をもって語られることの多い19世紀初頭のバッハ受容であるが、その背景には、バッハの作品を難易度に応じて階梯的に捉える傾向があり、批評家たちが、バッハの作品理解の裾野を広げるために《平均律クラヴィーア曲集》以外の作品の周知、啓蒙にも励んでいたことが明らかになった。この内容は論文の形で『美学芸術学研究』に公表予定である。 ③共編者を務めた『啓蒙思想の百科事典』に「ポリフォニーとホモフォニー」を寄稿し、ポリフォニーとホモフォニーの西洋音楽における布置がどのように変化したのかを概括した。18世紀後半(いわゆる古典派)の作曲家によるポリフォニーの使用は、トポスとして捉えられることも多いが、本研究課題の要となる専門家/愛好家の二項においてこの問題をどのように捉えるべきなのか、今後踏み込んで検討する必要があることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍のために、当初予定していた調査でまだ実施できていないものがいくつかある。その反面、2022年度は本研究を前進させるいくつかの知見にも到達することができたため、概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、まだ検討に着手していない18世紀、19世紀の文献や雑誌記事の読解を進める。特に、鍵盤楽曲から始まったバッハ運動が、声楽曲の復興にどのようにつながっていくのか、その接合点について、著述が比較的多く残されている専門家の側からではなく、愛好家の側から明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
パンデミックの影響で海外出張の予定を取りやめ、国内からでも入手可能な資料の読解に専念することにしたため、次年度使用額が生じた。
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