研究課題/領域番号 |
19K12979
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研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
神竹 喜重子 東京藝術大学, 大学院音楽研究科, 研究員 (70786087)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 地方都市 / ムーソルグスキイ / オペラ / モスクワ / ロシア / 移動 |
研究実績の概要 |
本研究は、19世紀末から20世紀初期のロシアにおいて、モスクワの私立歌劇場のオペラ上演が台頭するにあたり、特にオペラに携わる人の移動や作品の伝搬において私立歌劇場と地方都市の歌劇場の関係性が重要な役割を果たしていたことに着目し、その実態を歴史的に明らかにするものである。 本年度は、帝室劇場において長年上演されることがない一方、私立マーモントフ歌劇場において1897年にモスクワ初演を果たしたムーソルグスキイの《ホヴァーンシチナ》に注目した。同時期において、この作品が、ロシア帝国内地方都市ではいかに受容されていたのかという点が明らかにされていないことから、いち早くロシア音楽協会地方支部が設けられたキエフに焦点を絞り、アーカイヴ調査を行った。そのうえで、私立マーモントフ歌劇場におけるモスクワ初演との関連性を検討した。結果、下記の成果を挙げることが出来た。 (1)1892年にキエフ初演がなされていたことが判明し、アーカイヴ調査では、このキエフ初演に関する現地の受容状況を『キエフの言葉』紙などで整理した。 (2)《ホヴァーンシチナ》をめぐるキエフ初演とモスクワ初演において、オペラ関係者のデータを照合したところ、キエフ初演で中心的役割を担ったオペラ関係者が、その後私立マーモントフ歌劇場に移籍し、モスクワ初演にも携わっていたという実態が明らかになった。 (3)かつて帝室劇場でキャリアを積み、帝室劇場への不満から離反したオペラ歌手たちが、キエフやトビリシなどの地方都市で自らの私立オペラを結成し、ムーソルグスキイのオペラの普及に尽力していたこと、また彼らの指導下で育成された人材がその後モスクワの私立マーモントフ歌劇場や私立ジミーン歌劇場で活躍し、果ては帝室劇場の舞台を踏むという、ヒトの移動の循環形態を指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
先行研究において、《ホヴァーンシチナ》の舞台初演は1897年の私立マーモントフ歌劇場におけるモスクワ初演である、ということを前提に議論がなされてきたが、実はそれ以前の1892年にキエフ初演がなされていたこと、そしてこのキエフ初演とモスクワ初演との間において、ヒトの移動によるオペラ作品の伝播がなされていた、という実態を明らかにすることができた。《ホヴァーンシチナ》を一例都市、私立マーモントフ歌劇場と地方都市の歌劇場 の関係性が見出された。 キエフにおける現地調査で得られた以上の知見を、国際学会を含む複数の学会で報告したほか、学会誌に投稿した。
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今後の研究の推進方策 |
「ヒトの移動の循環形態によるオペラ作品の伝播」という問題に関し、さらに考察を深めるため、地方都市の歌劇場及びモスクワの私立歌劇場において活躍したオペラ関係者の師弟関係、公演ツアーのデータを整理し、データベース化する。そのうえで、当時の帝室による検閲との影響関係を検討する。
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