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2019 年度 実施状況報告書

近代ドイツ美学と占術の交叉に関する思想史的研究

研究課題

研究課題/領域番号 19K12983
研究機関東京藝術大学

研究代表者

井奥 陽子  東京藝術大学, 美術学部, 助手 (60836279)

研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2023-03-31
キーワード初期近代 / 美学 / 啓蒙 / ヴォルフ学派 / アルス / 認識 / 記号 / 天文学
研究実績の概要

(1)バウムガルテンの遺稿に記された美学体系を精査した。バウムガルテンは『美学』で詩学・修辞学に基づいた文学論を主に展開したことが知られているが、初期の構想ではそれらは一部に過ぎず、むしろ紋章学や観相学や暗号術といった多様な技術が美学の部門とされること、とりわけ占術への関心が顕著であることを明らかにした。バウムガルテンはそれらの技術を「認識」と「記号」という概念によって分類・説明することで美学へ算入しようとしていたこと、それゆえ美学は学芸体系の再編と表裏一体となって企図されたことを指摘した。
(2)上記のバウムガルテンによる構想に、ロイシュからの影響が考えられることを指摘した。ロイシュは、ヴォルフが創設可能な哲学的学科として挙げる「技術論」と「自由学芸の哲学」を統一的に捉え直す。本研究はこれを「アルスの哲学」と規定し、バウムガルテンによる美学創設をその具現化の試みとして捉える見解を提示した。
(3)バウムガルテン『形而上学』における認識能力論の訳注を完了し、総括を行った。認識能力論の構成は第2版で大幅に変更されるが、これは上記1の体系構想に連動していることを指摘した。
(4)天文学がバウムガルテンとマイアーの美学にどのように位置づけられているか検討した。先行研究には、両者の美学を近代天文学と対立的に捉える見解もあるが、両者ともフランス啓蒙思想の先駆であるフォントネルに美学的観点から好意的に言及していることを指摘した。また、バウムガルテンはギリシャ神話のムーサの種類に依拠して、芸術と天文学的知見を親和的に捉えていることを指摘した。さらに、フォントネルのドイツ語訳者であるゴットシェートを検討し、フォントネルの世界論が彼の自然学にどこまで受容されているか整理した。
(1)~(3)の成果は単著の第1~2章と巻末資料1~2に掲載し、(3)の訳注は紀要論文に掲載、(4)は研究発表で公表した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

「研究実績の概要」の(1)に記載したとおり、本研究の出発点となるバウムガルテンの遺稿を改めて全面的に精査したが、資料の作成、およびそれに伴う単著の改稿に、想定以上の時間を要した。それゆえ、バウムガルテンにおける占術のいっそう具体的な考察に進むことが出来なかった。
また予見能力論については、「研究実績の概要」(3)の研究結果から、『形而上学』第2版以降の予見・予感能力論だけを視野に収めていては不十分であると気づくに至った。というのも、認識能力論の構成は、初版では感覚能力・想像力・予見能力という現在・過去・未来に対応した3節から成るところ、第2版では9節に細分化されるからである。よって、美学のうちの占術部門が割り当てられるのは、第2版以降では第8節の予見能力と第10節の予感能力であるものの、初版で予見能力の節に含められていた第9節の判断力と第11節の記号的能力も包括して検討し直す必要がある。
また、ヴォルフやビルフィンガーなどの著作も読解を進めているものの、バウムガルテンとは異なって、占術について明確に論じられた分野があるわけではない。それゆえ、記号・解釈あるいはそれらの技法という観点から探る方向へ、軌道修正が必要となった。
以上の理由から、計画に対する進捗は遅れているものの、初年度に建設的な見直しを行うことができたため、2020年度以降の研究の質向上に繋がることが期待される。

今後の研究の推進方策

(1)バウムガルテンの美学思想全般における占術の位置づけを検討する。考察範囲を初期の『哲学的省察』(1735年)および主著の『美学』(1750/58年)へ広げ、占術への強い関心が1740年前後にのみ顕著であることの意味を探る。成果を美学会の全国大会あるいは例会で発表し、後に学会誌へ投稿する。
(2)マイアーの美学および解釈学における占術の位置づけを検討する。マイアーはバウムガルテンのほぼ忠実な追従者と思われがちだが、占術に関しては一般解釈学の部門とされている点に注目し、解釈学の系譜からその意義を検討する。成果の公表については、日本18世紀学会の全国大会へ2020年度末に応募し、2021年度6月に発表する。
(3)ヴォルフにおける記号概念に着目し、自然的記号から未来を予測する技術について考察する。とくに占星術と気象学を切り口に探究し、ロイシュやビルフィンガーとの比較も行う。この成果の公表は2021年度となる見通しである。

次年度使用額が生じた理由

予定していた7月の国際美学会(於ベオグラード)への参加を、学務との兼ね合いから取り止めたため。

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2020 2019

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] A・G・バウムガルテンとG・F・マイアーにおける固有名とその詩的効果2019

    • 著者名/発表者名
      井奥陽子
    • 雑誌名

      美学

      巻: 70(1) ページ: 1-12

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] バウムガルテン『形而上学』(第四版)「経験的心理学」訳注:その62019

    • 著者名/発表者名
      樋笠勝士、井奥陽子、津田栞里
    • 雑誌名

      成城文藝

      巻: 247 ページ: 93-107

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] ヴォルフ学派における天体の表象2019

    • 著者名/発表者名
      井奥陽子
    • 学会等名
      科学研究費補助金(基盤研究B)「詩学的虚構論と複数世界論の交叉の系譜的研究」(JP19H01209)第1回研究報告
  • [図書] バウムガルテンの美学:図像と認識の修辞学2020

    • 著者名/発表者名
      井奥陽子
    • 総ページ数
      344
    • 出版者
      慶應義塾大学出版会
    • ISBN
      9784766426557

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公開日: 2021-01-27  

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