描写の哲学は、画像経験を扱う点で認知科学との接点が少なからずある。そこで、実験心理学、心の哲学、科学哲学、美学をそれぞれ専門とする研究者4名(津田裕之、太田陽、源河亨、難波優輝の各氏)を招待して、「2021年度 描写の哲学研究会:描写の哲学と認知科学」と題した公開のオンライン研究会を開催した(概要:https://dpct.tumblr.com/2021)。この研究会では、経験科学と哲学の方法や関心の違い、両者の相補的な関係といった論点について、多くのオーディエンスを含めた活発な討論が行われ、理論研究としての描写の哲学の位置づけが明確になった。 また、前年度に行ったVRデバイスによる画像表象についての発表を部分的に踏まえるかたちで、バーチャルリアリティの存在論とそれを取り巻く倫理的な問題についての解説記事を発表した。 本研究課題は、現代のポピュラー文化における画像の使われ方に焦点をあわせ、その独特さの説明に対して描写の哲学の知見がどの程度寄与するのか、また逆にそれを説明するために描写の哲学がどのように拡張や修正を求められるのかという関心のもとで実施された。当初予定していた具体的な文化に対する理論の適用は(少なくとも成果公開の実績としては)いささか不十分に終わったものの、全体を通して描写の哲学の有用性および現段階での不十分さ(それゆえ今後の発展の可能性)を明らかにできたと思われる。また、現代文化への適用可能性だけでなく、言語哲学や認知科学といった他の研究分野との関係が明確にできたことの意義も大きい。研究期間中に発表がかなわなかった研究内容もあるので、今後の研究活動の中でそれらの成果を示していきたい。
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