研究課題
最終年度は、大正時代に出版された楽譜のうち、日本人の作曲家による作品を中心に調査を行った。たとえば、日本近代音楽館に所蔵されているセノオヤマダ楽譜1017番『美しきわが子いづこ』の彫刻原板として用いられたと思われる手稿譜を調べたところ、出版社への指示が書き込まれており、作曲者と楽譜出版社が協力して作業にあたっていた様子を見出すことができた。また、軍歌の楽譜や小唄の楽譜も、体系的に調べるまでには至らなかったものの、いくつかサンプル調査を行うことができ、広い視野から日本で出版された「楽譜」を捉えられるようになった。西洋の作曲家の作品については、歌曲における訳詞の問題についても、新たに取り組んだ。この研究機関全体の成果を単著としてまとめ、『大正時代の音楽文化とセノオ楽譜』を小鳥遊書房より2023年2月に刊行した。大正時代の楽譜のなかで最も有名なセノオ楽譜を軸に、同時代の他の出版社からの楽譜も引き合いに出しながら述べた。ここでは、この研究を通して明らかとなった、大正時代の洋楽受容における楽譜の重要性を指摘した。本書は2部構成で、前半ではセノオ楽譜やセノオ楽譜の主宰者・妹尾幸陽について、第2部では象徴的な楽譜10冊を例に、音楽文化とのかかわりを考察した。そして、レコードやラジオといったメディアの普及、ヴァイオリンなどの洋楽器の人気の高まり、海外の一流の演奏家やオペラ団の来日のような、当時の音楽界を賑わせた話題が、楽譜の出版事情と密接に結びついていた様子を描いた。
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Beethoven the European: Transcultural Contexts of Performance, Interpretation and Reception
巻: - ページ: 217-238