研究課題/領域番号 |
19K12990
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研究機関 | 名古屋外国語大学 |
研究代表者 |
白井 史人 名古屋外国語大学, 世界教養学部, 講師 (20772015)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 映画の音楽 / 無声映画伴奏 / 音楽学 / 比較文化研究 / メディア論 / ドイツ / グローバル化 / 近代 |
研究実績の概要 |
本研究は1910~20年代の日本、アメリカ、ドイツにおいて、無声映画がどのように上映されていたのかを明らかにすることを課題とする。楽譜、フィルム、文献などを収集・分析する歴史研究の基礎的手法を徹底し、地域や言語の枠組みを超えた無声映画伴奏のグローバルな展開の実態を解明することを目的としている。期間は2019~2021年度の3年間とし、初年度となる2019年は、主として以下の点において成果を上げることができた。 第1点は、日米独のそれぞれに関する資料収集および整理である。日本およびアメリカの事例に関しては、7月より研究補助者2名を雇用し、日本で無声映画上映に使用されていたテープ音源や、アメリカ発行の無声映画伴奏用キューシートのデータ入力を進めた。ドイツの事例に関しては、2020年2月から3月上旬にかけてベルリンのDeutsche Kinemathekを中心に資料調査を行い、未刊行の手稿譜を含む一次資料の収集を進めた。 第2点は、資料収集および調査に関する中間的な成果発表である。表象文化論学会全国大会(7月、京都大学)、アジアゲルマニスト会議(8月、北海学園大学)、日本映像学会ワークショップ(9月、京都)、所属機関の名古屋外国語大学で開催された講演(10月)、オーストラリアのタスマニア大学で開催された国際図像学会年次大会(11月)、12月に龍谷大学で開催された国際シンポジウムなどで発表を重ね、音楽学にとどまらず、映画学、ドイツ文学、図像学など複数の分野の研究者との意見交換を行うことができた。さらにその一部を、名古屋外国語大学ワールド・リベラル・アーツセンターが発行する雑誌Artes MUNDIに論文の形で公開した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は、日本の事例に関するデータベース作成および在外資料館での体系的資料収集を進める計画であった。 在外資料館での体系的収集に関しては、とりわけドイツのベルリンにおける現地資料調査で有力な成果があがった。予備調査の成果を踏まえ、無声映画期の伴奏譜に関して遺稿部門において一次資料を収集し、関連資料の収集・管理を担当しているアーキヴィストとさらなる調査のための意見交換を進めることができた。 日本の事例に関しては、採択決定後に所属研究機関を変更し転居する必要が生じ、資料館へのアクセス状況に若干の変更と制限が生じた。そのため、今年度は既に収集を進めていた資料のデータベース化の準備に注力した。ただし早稲田大学演劇博物館など、これまで資料調査を進めてきた主要資料館とは、国内出張を複数回行うことでコンタクトを保ち、さらなる研究の展開を模索している。 アメリカの事例に関しては、当初予定していた夏季の在外資料館における資料調査の実施は来年度以降へ延期し、UCLA大学特別コレクションで予備的に収集を進めた資料のデータベース化を優先した。7月から2020年1月の作業で基礎的な作業を完了し、次年度以降のデータベース化の作業へつながる成果が上がった。この基礎作業の途上で、アメリカ、日本、オランダなどを横断して流通した楽曲の考証が進み、一定の具体的分析が進展した。 今年度は、当初予定していた所属機関における参考上映を実施することはできなかった。しかしその反面、新たな所属機関の枠組みを活用した講演の実施や雑誌への投稿などを通じて一般へ向けた研究成果の発表を行うことができた。より学際的な研究ネットワークを構築するきっかけとなったため、今後の研究遂行に資するところが大きい。次年度以降は、所属機関における上映やデジタルデータの作成などの方法を検討し、さらなる調査の進展と成果公開を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画当初は、2年次となる2020年にアメリカおよびドイツの資料を中心とした調査とデータベース作成を進め、各地域の専門家を招聘して国際学会を開催することを予定していた。しかし、新型コロナウイルスの国際的な感染拡大状況を踏まえると、イベントの開催や在外資料館での調査が困難となる可能性が高い。こうした社会情勢の変化を踏まえ、日米独それぞれの資料の調査および考証を進める必要が生じている。 現状での次なる課題は、2019年度に基礎情報を入力したアメリカおよび日本の楽譜資料に関して、楽曲の内部情報に踏み込んだデータ入力をすすめることである。さらに、これらの成果を公開する方法として、テープ音源等のデジタル化や、楽譜資料を演奏家と連携し録音するなど、デジタルデータの形で調査や考証に活用することを構想している。ドイツの事例に関しては、2020年2月に収集した手稿譜の資料のデータ入力を開始し、雑誌文献資料などと組み合わせてさらなる分析を進展させる。なお当初雇用予定であった研究補助者の勤務形態や勤務管理に関しては、その条件を検討した上で、必要に応じて外部専門家もしくは業者による作業へと切り替える可能性がある。 2020年度の前半は、オンライン研究会などへの参加を通じて、2019年度の調査成果を踏まえた論文執筆を進めることで成果公開を目指す。またオンラインでのコンタクトを維持し、国際的な研究ネットワークのなかでの情報交換を進める。年度の後半には、国内外の情勢を見極め、可能な限り資料調査と成果発表を行うことで、研究の進展と成果の公開を進めていく。
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