本研究では、東アジアにおけるガラス工芸史の研究史上の空白期である13世紀から16世紀のガラス生産技術に着目する。かつて当期の日本は、現存作例の少なさゆえに「ガラスの歴史の上での暗黒時代」と評価されたこともあった。しかし、近年の発掘調査によって当期の検討材料は着実に増加しており、またガラスの原材料や成分組成に関する科学的研究が進められたことで東アジアの地域間交流に関する重要な手がかりが示されている。 本研究の目的は、近年の個別研究の成果を総合し、東アジアの広域的視野から13世紀から16世紀のガラス生産技術をとらえることで、その発展、伝播、定着の過程を解明し、王朝の枠組みを超えて共有された「普遍性」と各王朝の「地域性」の両文脈から東アジアのガラス工芸史を読み直すことである。 具体的な研究方法として、(i)現存作例の集成、(ii)国内外での実見調査、(iii)成分分析・実験製作を段階的に実施する予定である。初年度にあたる本年度は(i)を重点的に実施した。なお、当初の計画では、本年度に中国および韓国の出土・伝世資料の集成を行う予定であったが、2018年度から着手してきた日本出土・伝世資料の集成の拡充を優先した。とくに、沖縄県教育庁文化課『沖縄のガラス・玉等製品関係資料調査報告書』等にもとづき沖縄における出土・伝世資料について、中世墓資料集成研究会『中世墓資料集成』にもとづき全国の中世墓出土資料について大幅にデータを拡充することができた。現在も引き続きデータの整理を行っている。
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