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2020 年度 実施状況報告書

クチャ(亀茲)国の仏教石窟寺院をめぐる美術・考古・文献資料の総合的研究

研究課題

研究課題/領域番号 19K13002
研究機関京都大学

研究代表者

檜山 智美  京都大学, 白眉センター, 特定助教 (60781755)

研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2023-03-31
キーワード仏教美術史 / 図像学 / 西域 / 石窟寺院 / 仏教考古学 / 説一切有部 / 仏教説話 / シルクロードの仏教壁画
研究実績の概要

2020年度は新型コロナウイルス流行により当初の研究計画からの変更は生じたが、共同研究者とのオンラインミーティングなどを通した密接な連携を通して、初年度から取り組んできた共同研究の成果を共著"Traces of the Sarvastivadins in the Buddhist Monasteries of Kucha"(Giuseppe Vignato / Satomi Hiyama, with Appendices by Petra Kieffer-Puelz and Yoko Taniguchi)の原稿としてまとめることが出来た。
本著では、これまで殆ど全貌が知られていなかったクチャの早期の説一切有部系の石窟寺院址を、中国の石窟考古学の方法論とドイツ伝統の仏教図像学を照らし合わせ、更に文献学と保存科学の観点も参照することにより、学際的な視点から総合的な検討するという学際的な共同研究に取り組んだ。結果、クチャの説一切有部の仏教文化の発展の経過や石窟建築の流行の推移をより立体的に把握するための新たな枠組みの提唱や、6世紀以前の亀茲国の説一切有部系石窟寺院の当時の全体像の復元、そのユニークな建築様式と荘厳の特徴の分析、未比定の図像の新比定とそれを踏まえた亀茲の説一切有部教団の早期の説話伝承の復元的分析、そして同地域の6世紀以降の説一切有部の僧院建築と説話伝統との差異の比較など、多くの新たな研究成果を導き出すことが出来た。2021年3月には、ライプツィヒ大学のオンライン・プラットフォーム上で二度の研究成果に関する発表を行うことにより、各国の当該分野の研究者と活発に意見を交換し、多くのご批判とご助言も頂いた。2021年4月現在、これらの意見を反映させた修正版の原稿を仕上げている最中であり、2021年内にはインドのDEV Publicationから出版される目途が立っている。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

当初の研究計画では、「研究実績の概要」で挙げた共著は本課題の初年度に完成させる目標であり、次年度以降の研究はその成果に基づいて発展させる予定であった。しかし、実際には6世紀以前の亀茲国の説一切有部系石窟寺院の全貌を復元的に考察するために、該当する分期の全石窟の徹底的な分析に加え、その前後の分期の石窟寺院の状況も把握する必要があり、当初想定していた以上に分析の対象範囲を広げざるを得なかった。また、研究の前提となる方法論や関心が異なる考古学と美術史のアプローチを融合させるためには、僅かなステップを進めるだけでも共同研究者との慎重な議論を十分に重ねる必要があった。そのため、結果的に第二年度も共著の完成のために尽力することとなった。しかし、充分な時間を取って考察の対象となった200を超える石窟に関する膨大な数の資料を消化し、学際的な議論を深めながら研究を進めることが出来た結果、本共同研究の成果をより精度の高いものにすることが出来たと考えている。また同時に、研究期間の後半2年間で取り組むことになる6世紀以降のクチャの仏教文化を分析するための具体的な視座と着眼点・問題点も明らかになったため、四年間の研究期間全体の目標を遂行するためには順調に研究が進展したと言えるだろう。

今後の研究の推進方策

2021年度~2022年度にかけては、本課題の前半二年間で集中的に分析したクチャの6世紀以前の説一切有部系石窟寺院に関する成果に基づき、6世紀以降、特に亀茲国が西突厥の支配下に入っていた時代の仏教文化と物質文化を、中心柱窟を中心に構成された石窟群の第二インド・イラン様式壁画の図像・材質分析に基づいて研究する。これらの石窟群は、6世紀以前に造営された一連の石窟群とは石窟の空間構成、図像モチーフ、そして顔料のレパートリーの点において明確に異なる特徴を示しており、これらの特徴を当時のクチャの歴史・考古学的背景と関連付けて分析することにより、6~7世紀のシルクロード東部におけるクチャの仏教文化のユニークな立ち位置と、周辺地域との関係を明らかにすることが出来ると考えている。
本来の研究計画では、資料収集のためドイツやロシアへ赴く予定であったが、新型コロナウイルスの流行により渡航の目途を立てることが難しい現状において、2021年度は関連の一次史料や先行研究の読み込みと整理に専念したい。幸い、最も関連資料数の多いベルリンの西域壁画コレクションはつい最近デジタル・アーカイブが公開されたため、そちらとライプツィヒ大学の西域北道の壁画図像データベースを活用しつつ研究を進めたい。

  • 研究成果

    (9件)

すべて 2020 その他

すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件) 備考 (2件)

  • [国際共同研究] Saxon Academy of Sciences and Humanities/Leipzig University/Asian Art Museum, Berlin(ドイツ)

    • 国名
      ドイツ
    • 外国機関名
      Saxon Academy of Sciences and Humanities/Leipzig University/Asian Art Museum, Berlin
  • [国際共同研究] 北京大学考古文博学院(中国)

    • 国名
      中国
    • 外国機関名
      北京大学考古文博学院
  • [雑誌論文] Transmission of the “World”: Sumeru Cosmology as Seen in Central Asian Buddhist Paintings Around 500 AD2020

    • 著者名/発表者名
      Satomi Hiyama
    • 雑誌名

      NTM Zeitschrift fuer Geschichte der Wissenschaften, Technik und Medizin

      巻: 28 ページ: 411~429

    • DOI

      10.1007/s00048-020-00245-9

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] New Identification of the Mural Fragment from the ‘Pfauenhoehle’ (Kizil Cave 76, III 8842)2020

    • 著者名/発表者名
      Satomi Hiyama
    • 雑誌名

      Indo-Asiatische Zeitschrift

      巻: 24 ページ: 4~14

    • 査読あり / 国際共著
  • [学会発表] クチャの説一切有部系の説話美術に見られる二つの系統について2020

    • 著者名/発表者名
      檜山智美
    • 学会等名
      2021 年度密教図像学会 第 40 回学術大会
  • [学会発表] 西域北道の仏教石窟壁画に描かれた四天王とその眷属の図像2020

    • 著者名/発表者名
      檜山智美
    • 学会等名
      京都大学人文科学研究所「東アジアにおける阿弥陀如来の表象」班 第2回研究会 研究討論会「尊像の姿と作用―阿弥陀仏と四天王を例に」
    • 招待講演
  • [学会発表] 文化遺産をめぐる議論―ナラティブ、権力、脱類似化: シルクロードの仏教美術史の視点から2020

    • 著者名/発表者名
      檜山智美
    • 学会等名
      Kamogawa Talk Vol.2 学術とアート・文化の対話 「良い文化」とは誰が決めるのか?―文化遺産をめぐる議論
    • 国際学会 / 招待講演
  • [備考] ザクセン州立学術院「西域北道のクチャの仏教石窟壁画に関する学術研究プロジェクト」

    • URL

      https://www.saw-leipzig.de/de/projekte/wissenschaftliche-bearbeitung-der-buddhistischen-hoehlenmalereien-in-der-kucha-region-der-noerdlichen-seidenstrasse

  • [備考] ベルリン国立アジア美術館

    • URL

      https://blog.smb.museum/begriff/museum-fuer-asiatische-kunst/

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公開日: 2022-03-04  

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