研究課題/領域番号 |
19K13002
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
檜山 智美 京都大学, 白眉センター, 特定助教 (60781755)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 仏教美術史 / 西域仏教 / クチャ / 石窟寺院 / シルクロード / 仏教壁画 / 説一切有部 |
研究実績の概要 |
本年度は、前年度までに祖型を完成させた共著"Traces of the Sarvastivadins in the Buddhist Monasteries of Kucha"(Giuseppe Vignato / Satomi Hiyama, with Appendices by Petra Kieffer-Puelz and Yoko Taniguchi)の原稿を、国内外の研究者からのフィードバックを元に修正・校正することに注力し、2022年1月に実際に刊行することが出来た。 本著では、考古学と美術史の方法論を組み合わせることにより、クチャの説一切有部系の石窟寺院を四分期に分類した。中でも主流であった二分期を仮に「A伝統」「B伝統」と呼び、それぞれの伽藍配置や荘厳の図像内容、尊像配置と儀礼の関係などの特徴を分析した。結果、前者はクチャ地域の中でもより早期の説一切有部教団の文化、後者はより後期の文化を反映しており、それぞれが異なる系統の戒律に基づいた僧団生活を送り、また異なる説話伝承を保持していたという可能性を提示した。この研究成果は、同一地域の説一切有部教団にも多様性が存在したことを示すと同時に、中央アジアの有部教団の発展の様相を考古学的遺構に基づいて復元的に分析するという新たな研究アプローチも提起するものである。また、石窟寺院址の分期ごとの相対年代も提示するものであるため、各分期の壁画に特有の図像モチーフや絵画材料を当該地域の歴史的背景と関連付けて、更に応用的な研究を行うための基礎ともなる。そのため、本研究の実績は、説一切有部系の仏教文化や西域仏教美術史分野の今後の研究に寄与する有意義な成果であると言えよう。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題開始当初の研究計画では、「研究実績の概要」で挙げた共著を本研究課題の前半期に完成させ、後半期はその成果に基づいて更に応用的な研究を発展させるという計画を描いていた。しかし研究作業の進展につれ、共著の中で扱うべき石窟が事前の想定を遥かに上回る数であることが分かったこと、更に附論としてご寄稿頂いた文献学・保存科学の視点からの研究においても多くの新知見が得られ、考古学・美術史的アプローチによって構成された本編と有機的に関連付けて新たに分析する必要が生じたことから、結果的に研究計画の後半期で遂行する予定であった研究内容も、共著における共同研究作業の中で扱うという変更が生じた。加えて、国内での研究書の出版とは異なり、文章校正も全面的に著者自身で行わなければならなかったため、300頁超の英文テキストの度重なる校正作業に半年以上を費やした。これらのことから、当初の計画との変更は生じたが、その分、当初の計画以上に共著の研究内容を充実させ、十分な校正も経た上で出版をすることが出来たため、総合的に研究はおおむね順調に進展したと言える。
|
今後の研究の推進方策 |
本課題の最終年度においては、以下の二点を重点として研究を推進してゆくつもりである。 ・共著の中国語版の出版。当該研究分野の特徴として、欧米圏と東アジア圏において研究が分断されがちであるという現状があるが、その要因の一つとして二次文献の言語的障壁が挙げられる。しかし、本共同研究の成果は石窟遺構を有する中国語圏の当該分野の研究者にも是非読んでもらいたいため、現在、本著の中国語版の出版準備を進めている。なお中国語版に際しては、原著の出版後に各国研究者から寄せられたフィードバックを反映して本文の改訂を加える。 ・ドイツでの資料調査。本課題の第二~三年度においては、資料収集と現地研究者との研究交流のためにベルリンやライプツィヒなどへと赴く予定であったが、新型コロナウイルスの流行及び国際情勢の悪化により渡航が困難であった。最終年度となる現在、ようやくヨーロッパへの渡航の目途がつきそうであるため、情勢が許せば、最近新美術館へと移転したばかりで、新たに修復されたクチャの壁画が多数展示・所蔵されているフンボルト・フォーラム(旧ベルリン国立アジア美術館)の西域壁画コレクションの調査と、ライプツィヒ大学のクチャの仏教石窟壁画研究センターのリソースを活用した研究滞在を行いたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス流行及び国際情勢悪化の影響を受け、当該年度に予定していたドイツ等での研究滞在を行うことが出来なかったため、使用しなかった旅費が次年度使用額として生じた。次年度中に長期海外出張が実現可能な状況になれば、本来は当該年度中に行う予定であったドイツでの研究滞在を改めて実施したい。
|