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2019 年度 実施状況報告書

20世紀フランス前衛美術における価値評価システムの形成と美術制度の役割

研究課題

研究課題/領域番号 19K13003
研究機関神戸大学

研究代表者

平田 裕美 (松井)  神戸大学, 国際文化学研究科, 講師 (40774500)

研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2022-03-31
キーワード造形的メタファー / 古典主義 / 前衛 / 美術制度 / モダニズム / パブロ・ピカソ / 美術史の形成
研究実績の概要

2019年度は、前衛芸術家と制度の関係について下記の3点より研究を進めた。1)モダン・アート史の形成と古典主義:西洋文化における模範・基準・規範としての「古典」がどのようなかたちをとってきたのかを考えてみると、実のところ一般に考えられているほど「古典的なるもの」の輪郭が確固たるものではなく、可変的なものであり得たことが浮かび上がってくる。スタンダードと規範、モデルとモデルからの逸脱といった様々な概念・現象の配置やそのダイナミズムの中で、どのようにモダン・アートの歴史が誕生したのか考察した。またこのテーマについての意見交換の場を設けるために、東京大学において国際シンポジウム「過去の巨匠と近代芸術」を主催した。
2)美術史の攪拌:美術史が形成さ制度化されるや否や、あらゆる様式的分類を逸脱する芸術家が登場する。パブロ・ピカソがその一人である。そのような逸脱において「造形的メタファー」が果たした役割について考察し、共著の分担執筆論文として出版した。
3)前衛の制度化と抵抗:ピカソのような前衛的な芸術家であっても、決してモダニズムの歴史が描くような孤高の天才ではなく、パトロンや批評家など様々な人々の支援があって成功し、名声を得た。ピカソを例に、前衛と美術制度や市場との関係について考察し、論考として出版した。
4)前衛とマイノリティ:前衛は、どのような集団であれメインストリームの文化に対し抵抗する性質を共通して持っているが、前衛の歴史の中にも中心と周縁が再生産されることになる。その点に注目し、女性画家や日本人芸術家、プリミティヴィズムやオリエンタリズムに注目する研究を遂行した。その一環として、神戸大学で「イスラム美術コレクションの形成と普及」と題するワークショップを主催した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

今年度は当初予定していたよりも多くのテーマに取り組むことができた。例えば、東京大学で開催したシンポジウムでは、下記のような複雑な方法で過去のイメージとの関係が新たな創造行為と結びついていたことが確認された。原作のコピーの仕方や再利用の仕方が第二帝政以前に比べて遥かに多様になったが、この背景には、複製技術や美術館制度の整備によって作品へのアクセス可能性が19世紀から20世紀初頭に大きく拡大したことが関係していたと考えられる。このアクセス権の拡大のなかで、とりわけ美術館制度や美術史的な著作を通し、オールド・マスターによる芸術と近代芸術という二つの制度的な区分がより確固たるものになっていったと考えられる一方、互いの対話的な機能は、それぞれの芸術家において幅広い可能性を持つようになり、作者の「所属」を明瞭にしその芸術を正当化する場合もあれば、逆に過去の芸術を脱聖化したり、またそのことによって作者性やオリジナリティーといった概念を問い直したりする道具として機能する場合もあった。こうした概念の問い直しは、まさにイメージがエージェンシーとして持ちうる作用であると考えることができる。イメージはそれぞれの作品に引用されるなかで、時には作者自身の意図や目的を離れて作用した。
また、神戸大学のワークショップでは、イスラム美術がフランスやイギリスにおいて制度的に取り入れられる中で、ある種の超歴史的な普遍的概念として機能しながら、とりわけデザインや装飾の分野で基本的な原則として吸収されることを通して、モダニズムと結びついたことが明らかになった。そこから発展し、モダン・アートが外部をどのようにみていたのか、またどのような構造によってモダン・アートの内部にマイノリティが出現していたのかについて取り組み始めた点も、当初以上の進展を本課題にもたらした。

今後の研究の推進方策

当初は2021年度は海外調査を積極的に行い、前衛芸術家のアトリエとなったアーカイヴを調査する予定であったが、コロナウイルス蔓延により、今年度の調査の見通しは立っていない。少なくとも2021年度前半は、インターネットアーカイヴを用いた事前調査を国内で行い、後半に出張可能になった場合に、現地調査に向かう予定である。また国内で手に入る書物や国内に所蔵されている資料をもとに、前衛美術と精度の関係について論じる。状況が二転三転する年度となることが予想されるため、臨機応変に課題に取り組みたい。

  • 研究成果

    (11件)

すべて 2020 2019 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 4件) 図書 (1件) 備考 (2件) 学会・シンポジウム開催 (2件)

  • [国際共同研究] パリ社会科学高等研究院/パリ・ナンテール大学(フランス)

    • 国名
      フランス
    • 外国機関名
      パリ社会科学高等研究院/パリ・ナンテール大学
  • [雑誌論文] ピカソの名声形成の諸要因と自画像の変遷2020

    • 著者名/発表者名
      松井裕美
    • 雑誌名

      立教大学フランス文学

      巻: 49 ページ: 29-54

    • 査読あり
  • [学会発表] Entre l’influence et la contagion : le classicisme et la formation artistique dans la culture d’avant-garde2020

    • 著者名/発表者名
      Hiromi Matsui
    • 学会等名
      過去の巨匠と近代芸術 受容・反復・再解釈(19~21世紀)
    • 国際学会
  • [学会発表] Lecture croiee entre Ruskin et les artistes d’avant-garde du 20eme siecle en France2019

    • 著者名/発表者名
      Hiromi Matsui
    • 学会等名
      国際シンポジウム『Ruskin et la France』
    • 国際学会
  • [学会発表] 第二次世界大戦下の独立派芸術作品と国家購入2019

    • 著者名/発表者名
      松井裕美
    • 学会等名
      国際シンポジウム『第二次世界大戦期のフランスをめぐる芸術の位相』
    • 国際学会
  • [学会発表] Between Visibility and Invisibility: Diagram of Landscape in Harun Farocki's film works2019

    • 著者名/発表者名
      Hiromi Matsui
    • 学会等名
      Freie Universitat Berlin - Kobe University - Ritsumeikan University Joint Workshop on 'Landscape and New Media in Art, Film and Theatre'
    • 国際学会
  • [図書] 『ピカソと人類の美術』2020

    • 著者名/発表者名
      大髙保二郎・永井隆則編、松井裕美ほか分担執筆
    • 総ページ数
      512(105-135)
    • 出版者
      三元社
    • ISBN
      9784883035083
  • [備考] 国際研究会『過去の巨匠と近代芸術』(東京大学・2020/01/22)実施報告

    • URL

      https://www.modernarts.info/post/maitresanciens

  • [備考] 研究会『イスラム美術コレクションの形成と普及』(神戸大学・2019/09/30)実施報告

    • URL

      https://www.modernarts.info/post/artislamique_france_japon

  • [学会・シンポジウム開催] 過去の巨匠と近代芸術 受容・反復・再解釈(19~21世紀)2020

  • [学会・シンポジウム開催] 研究会「イスラム美術コレクションの形成と普及―東洋と西洋の眼差しの交叉―」2019

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公開日: 2021-01-27  

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