本研究は、1890年代に始まるドイツ・ジャポニスムの新たな興隆が、フランスを経由してドイツへともたらされたその顛末を明らかにするため、ドイツ人美術商ジークフリート・ビング、ドイツ人美術批評家ユーリウス・マイアー=グレーフェ、ベルギー人建築家アンリ・ヴァン・ヴェルデに注目し、それぞれ立場の違う彼らの活動を追いかけながらドイツ・ジャポニスムを多角的に考察するものである。 研究期間を一年間延長して最終年度となった2022年度の成果として、まず、昨年度に投稿した論文「『我々はどこへ漂いゆくのか』Wohin treiben wir?:ジークフリート・ビングとユーリウス・マイアー=グレーフェ」が、学会誌『九州ドイツ文学』第36号に掲載された。夏には、コロナ・ウィルス感染症の影響により二年間不可能だったドイツ調査旅行を実施し、ジャポニスム運動が盛んだった都市、ケルン、ミュンヒェン、ドレスデン、ベルリンの美術工芸博物館および美術図書館を中心に資料を収集した。中でも、諸都市の美術工芸博物館や美術工芸学校の設立に関する資料を得たことは収穫だったと言える。2022年度中はこれらの資料を整理するだけに終わったが、今後研究を進め、ドイツが美術工芸を振興しはじめたその時期に、日本美術が達成すべきモデルとなったことを証明したい。 また、ドイツ・ジャポニスム研究の過程で風刺画家ジョージ・グロッスに目が向き、開館したばかりのベルリンのクライネ・グロッス美術館で資料を手に入れたこともあり、愛媛出身の画家、柳瀬正夢とグロッスとの関連を探る研究も開始した。この成果は、2022年10月に愛媛県美術館で市民向けのレクチャー「柳瀬正夢とドイツ美術」を行い、2022年12月に九州藝術学会で発表「柳瀬正夢とジョージ・グロッス」を行った。これらをまとめ、2023年度中に学会誌に投稿する予定である。
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