研究課題/領域番号 |
19K13007
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研究機関 | 京都市立芸術大学 |
研究代表者 |
山下 晃平 京都市立芸術大学, 美術学部/美術研究科, 非常勤講師 (50792131)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 前田常作 / 国際的同時性 / 戦後日本美術 / 文化受容 / 国際性 / 民族性 / 美術批評 / 日本的なもの |
研究実績の概要 |
研究対象である1960年代の美術言説「国際的同時性」と「前田常作」論に関しては、これまでに収集した資料を、美術・建築_文学などジャンル別に、また国際性や民族性などのキーワード別に分類を行い、時系列に視覚資料化した。資料化により、1960年前後の日本美術界の志向性を詳細に分析することが可能となった。 継続的な言説分析によって、戦後の抽象化が進む日本美術界において、1960年の反芸術世代の一つ前の世代である前田常作が、「国際性」という共通基盤における独自性をもった作家として評価されていることを明らかにし、日本における「国際的同時性」の文脈とその構造について再検討した。 また言説分析に並行して、対象となる1960年前後の前田常作作品の現地調査を行なった。新型コロナウイルス感染症拡大のため延期となっていた前田常作のアトリエ(伊豆)にある作家蔵の作品調査を、ご家族の許可を得て実施することができた。この調査によって、パリのランベール画廊に残されていた1960年前後の作品群を調査・撮影することができ、1960年前後の「人間風景」「人間誕生」シリーズやその前段階における、前田常作の技法(油彩と日本画の技法との併用や厚塗りの時代にあって非常に独自性がある)や構図の特徴をさらに確認することができた。その他、群馬県立近代美術館、新潟県立近代美術館、大原美術館においても、許可を得て、前田常作の「人間風景」「人間誕生」「人間星座」シリーズの作品調査を行い、当時の「前田常作」論で論じられている内容と比較検討した。 一方で、昨年度に続き、日本文化論領域の先行研究を確認し、日本の対外文化の受容構造に関する考察を進めた。これまでの言説資料分析と作品調査を踏まえ、表象文化論学会の第2回オンライン研究フォーラム2020(2020年12月18-20日)にて単独での口頭発表を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度に予定していた研究対象である作家・前田常作のアトリエ調査についてはご家族の許諾を得ることができ、実施できたが、別途、宗教法人昭徳稲荷大明神恵心講が所蔵する前田常作の「絵巻」シリーズの作品群については、新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、所蔵者と連絡を取ってはいるものの、現地調査を実施することができていない。同様に、フランス国立図書館にある前田常作のパリでの個展に関する冊子や、ドイツのデュッセルドルフ市立美術館で1974年に開催された「日本 伝統と現代」展に関する作品及び資料調査もまた、新型コロナウイルス感染症拡大に伴い困難な状況にある。 そのため今年度は、国内の前田常作作品の調査点数を増やし、さらに同時代でかつ前田常作が所属していた自由美術協会に所属していた他の作品調査や資料確認へと調査対象を拡大し、比較情報を増やしている。また「国際的同時性」や「民族性」に関する言説のカテゴライズを進め、文学・建築・音楽と隣接領域も含めたジャンル区分を行い、時代の志向性を相対的に検証することとした。 上記の作品や資料を調査することで、本研究課題である1960年代の「国際的同時性」の文脈について、より詳細な考察が可能となるが、その一方で今年度は、戦後日本美術界の構造をより多面的捉えることに研究の比重を移し、日本文化の構造というより高次な視点から、日本美術史形成過程を捉える研究方法を採用していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
収集した言説資料については、カテゴライズした同時代の文学や建築等美術の隣接領域の言説についても分析を進め、戦後日本における「国際性」と「民族性」の議論の実態とその文脈を明らかにしていく。今後はさらに、比較研究対象としている同時代の抽象画家、オノサト・トシノブに関しても、これまで収集した言説資料を分析し、当時の評価とその価値基準を明らかにすることで、論点に組み込みたい。 また並行して進めてきた関連作品の調査については、新型コロナウイルス感染症の状況を鑑みつつ、延期になっている旧昭徳稲荷記念館所蔵の前田常作作品(現在は東京の倉庫で保管中)の作品調査を検討したい。フランス国立図書館あるいはデュッセルドルフ市立美術館の海外調査についても同様に、社会情勢を見ながら判断する。 その上で、これまでに進めてきた1960年代の「国際的同時性」と「前田常作」論の分析結果と、昨年度に作成した視覚資料を踏まえながら、今年度は「国際的同時性」と日本の歴史的文脈との関係、すなわち西洋に起因する美術制度受容と一方で日本文化の二層構造によって生じる日本の独自性という、これら文化構造の相関関係、価値基準の偏向、そして日本の個体性について考察したい。その結果を、本研究テーマに掲げている「戦後日本美術史形成過程」に関する論文として作成し、所属する学会(表象文化論学会)への投稿を行う。
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備考 |
戦後日本美術史を検証するため、各時代の主要な美術家、美術評論家等へ行なったインタヴューを口述資料として公開している。申請者も2016年より所属し、作家への聴き取り調査を行なっている。本研究に関連する事項についても聴き取りを行なっているため関連資料として掲示する。
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