研究課題/領域番号 |
19K13008
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研究機関 | 実践女子大学 |
研究代表者 |
粂 和沙 実践女子大学, 文学部, 助教 (20634900)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ジャポニスム / 受容史 / ジェントルマンズ・クラブ / コレクション / マスキュリニティ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、英国紳士階級の日本美術愛好家の社交の場であったバーリントン・ファイン・アーツ・クラブを取り上げ、①クラブ主催の日本美術展、②日本美術を介した会員間の交遊、③男性の社交空間における日本美術受容の実態(ジャポニスムとマスキュリニティ)といった項目を立て、調査検討を行なうことにある。 2年目となる2020年度は、②日本美術を介した会員間の交遊について、ジャポニスムの担い手とされた芸術家・コレクター・美術批評家がどのように相互に影響を与え合い、日本への関心を共有していたのか調査を行った。当初は、ナショナル・アート・ライブラリーや大英図書館に保管されている彼らの日記や回顧録、書簡など、英国での一次資料調査を計画していたが、パンデミックにより渡航が叶わなかったため、国内で入手可能な二次文献やデジタル・アーカイヴを活用し、可能な限り資料収集を行なった。 同クラブの会員には、D.G.ロセッティ、F.レイトン、J.M.ホイッスラーといった当時の芸術界を牽引した人物が名を連ねている。本年度はまず彼らの日本美術愛好家としての一面について、二次文献をもとにコレクションの概要を整理した。次いで、クラブ主催の日本美術関連の展覧会に携わりながらも、今日ではあまり知られていない会員の経歴やコレクションに関する調査に着手した。とりわけ注目したのが、同クラブの日本美術展にたびたび自身のコレクションを提供し、来日経験をもつ水彩画家のF.ディロンである。現在では彼の画業が顧みられることはほぼなく、その経歴には不明な点も多いが、同クラブのジャポニスムを検討する上で重要な人物である。本年度はデジタル・アーカイヴを用いて、ディロンの訪日や個展に関する資料収集を行なった。だが、彼の作品調査など国内では実施できない調査項目もあり、研究成果の公開には至らなかった。この点は次年度へ引き継ぐ予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度の主たる課題であるバーリントン・ファイン・アーツ・クラブの会員に関する調査研究は、2019年度に実施した英国におけるアーカイヴ調査で入手した会員名簿等の一次資料やデジタル・アーカイヴによって、同クラブ主催の日本美術展に積極的に関わった会員のリストアップやコレクションの概要など、ある程度まで整理することができた。一方で、個々の会員同士の交遊関係については、彼らの日記や回顧録、書簡など、デジタル化されていない一次資料の調査・分析が欠かせないが、これらの資料調査はパンデミックにより英国への渡航が叶わず、実施することができなかった。 このように日本国内では困難な調査項目をやむを得ず保留としたことに加えて、本務先である大学において急遽始まったオンラインでの授業準備に例年以上に時間を要したこともあって、十分な研究時間を確保することができず研究成果の公開には至らなかった。ゆえに、本年度の研究についてはやや遅れていると言わざるを得ない。
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今後の研究の推進方策 |
紳士階級の男性を主体とするクラブの日本美術受容の特徴(好まれた作家や主題の傾向など)を明らかにすべく、まずは、2019年度に実施した日本美術展に関する調査と、2020年度の個々の会員に関する資料調査を総合的に検討したい。最終年度には、こうした調査を踏まえた上で、近代イギリス特有の「クラブ」という男性の社交空間におけるジャポニスムについて考察する。また、男性会員の中には、画家のE.バーン=ジョーンズのように、1880年代以降ミドル・クラスの女性たちの間で流行した日本趣味について否定的な見解を書き残している者も多い。こうした男性会員による日本美術論について、ナショナル・アート・ライブラリーを中心に資料調査を実施したい。 そして本研究の総括として、これまで申請者が取り組んできたミドル・クラスの女性たちを主体とするジャポニスムとの比較検討を行なうことにより、ジャポニスムの受容史をジェンダー的観点から再構築することを目指す。 調査研究は、2020年度に引き続き、デジタルアーカイヴや資料の遠隔複写サービス等を積極的に活用しながら進める予定である。とはいえ、現地に行かなくては閲覧できない貴重書や文書等も少なくない。2020年度に実施できなかった調査項目も含めて、2021年度にはまとまった日数を確保し、英国での資料調査に努めたい。しかしながら、パンデミックが長期化し、2021年度も引き続き現地調査が叶わない場合には、本研究期間の延長もやむを得ないと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は、ロンドンのナショナル・アート・ライブラリー、大英図書館等で二週間程度の資料調査を予定していたが、パンデミックにより海外出張を遂行できなかったため、次年度使用額が生じた。この前年度からの繰越分は、2021年度に計画している海外出張費に充当したいと考えている。なお、2021年度の海外調査は、前年度に実施できなかった調査項目も含めて、ロンドンを中心に現地の美術館やアーカイヴで行なう予定である。現地調査は、今後の新型ウィルスの感染拡大状況や勤務先の学事日程にもよるが、2021年度後半に2週間程度は実施したい。ただし、引き続き海外渡航が叶わない場合には、本研究の研究期間の延長も検討している。
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