研究課題/領域番号 |
19K13008
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研究機関 | 実践女子大学 |
研究代表者 |
粂 和沙 実践女子大学, 文学部, 助教 (20634900)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ジャポニスム / ジェントルマンズ・クラブ / 受容史 / 展覧会 / ジェンダー / マスキュリニティ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、英国紳士階級の日本美術愛好家の社交の場であったバーリントン・ファイン・アーツ・クラブを取り上げ、①クラブ主催の日本美術展、②日本美術を介した会員間の交遊、③男性の社交空間における日本美術受容の実態(ジャポニスムとマスキュリニティ)といった項目を立て、調査検討を行なうことにある。 2020年度以降、新型コロナウィルス感染症のパンデミックにより英国での資料調査を見送るという状況が続いている。そのため研究期間を延長し、2019年度の調査で収集した同クラブの設立や運営に関わる資料や、クラブ主催の日本美術展に関する資料の分析を進めたほか、二次文献やデジタル・アーカイヴを活用し、「②日本美術を介した会員間の交遊」及び、③男性の社交空間における日本美術受容の実態(ジャポニスムとマスキュリニティ)に関する調査を行なった。後者のジャポニスムとマスキュリニティをめぐる問題については、クリストファー・リードによってBachelor Japanists: Japanese Aesthetics and Western Masculinities(2016年)の中で取り上げられている。ここで議論の俎上に上げられているのは、主に19世紀末のフランスとアメリカのボストンを中心とした男性の日本美術愛好家やコレクターで、英国のジェントルマンズ・クラブに焦点を当てた本研究課題と直接関係するものではないが、ジェンダー的な観点から西洋の日本美術受容を考察する上で、示唆に富んだ先行研究である。最終年度の総括に向けて、2022年度はリードの研究をはじめとする先行研究をいま一度精査することにも時間を割いた。英国での資料調査が実施できなかったこともあり、研究成果の公開には至らなかったが、この点は次年度へ引き継ぐ予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
英国での資料調査が実現したのは初年度(2019年度)のみで、それ以降は日本国内で入手可能な二次文献やデジタルアーカイヴを活用して資料収集に努めている。初年度に行なった英国におけるアーカイヴ調査で収集した、同クラブの設立や運営に関わる資料や、クラブ主催の日本美術展に関する資料の分析はすでに終えた。一方で、個々の会員同士の交遊関係については、彼らの日記や回顧録、書簡など、デジタル化されていない一次資料の調査・分析が欠かせないが、これらの資料調査はパンデミックにより英国への渡航が叶わず、本研究課題の最終年度までに実施することができなかった。このように日本国内では困難な調査項目を保留としたこともあり、当初の研究計画通りに進展しているとは言い難い。ゆえに、本年度の研究についてはやや遅れていると言わざるを得ない。
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今後の研究の推進方策 |
まずは2020年度以降、延期せざるを得なかった英国での資料調査に着手する予定である。ロンドンのナショナル・アート・ライブラリーや大英図書館において、バーリントン・ファイン・アーツ・クラブの会員の日記や回顧録、書簡の調査を行ない、帰国後にこれらの資料の精査を進める。これを踏まえ、近代イギリス特有の「クラブ」という男性の社交空間におけるジャポニスムについて考察し、これまで申請者が取り組んできたミドルクラスの女性たちを主体とするジャポニスムとの比較検討を行ない、本研究課題の総括をする。
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次年度使用額が生じた理由 |
実践女子大学の校務及び海外渡航制限のため、予定していた海外調査が実施できなかったことによる。2023年度はロンドンでの資料調査を行ない、旅費として執行する予定である。
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