1888年にロンドンのバーリントン・ファイン・アーツ・クラブで開催された「日本の木版画と版本の歴史」展は、イギリス国内における浮世絵受容のみならず、フランスのジャポニスムの立役者の一人である美術商のS.ビングが手がけた「大浮世絵展」(1890年、パリ)をはじめ、以後西欧で開催された浮世絵展にも影響を与えたという点で、美術史上重要な展覧会である。2023年度は、クラブ主催の展覧会の数年後にフランスで行われた「大浮世絵展」に与えた影響について探るため、フランス国立図書館と国立美術史研究所において展覧会の美術批評記事などの資料収集、および、在仏の浮世絵コレクションに関する調査を実施した。当初の研究計画では、フランスにおける資料収集および作品調査は、調査の初期段階に実施する予定であったが、コロナ禍による海外の渡航制限もあって現地での調査は先延ばしになっており、今回ようやく実現することができた。2019年度に実施したイギリスにおけるバーリントン・ファイン・アーツ・クラブに関するアーカイヴ調査、および日本国内における文献調査によって、ビングが1888年に同クラブで行われた浮世絵展を踏まえて、1890年に「大浮世絵展」を組織したことは明らかであったが、今回フランス側の資料調査によってもこのことを裏付けることができた。また今回の調査によって、ビングがフランス国内のみならず、1880年代後半以降イギリスの日本美術愛好家とのコネクションをも充実させ、イギリスでも積極的に美術商としての事業を展開しようとしていた事実も浮かび上がってきた。最終年度末にようやく海外調査が実現したため、公表には間に合わなかったが、こうしたビングの活動がイギリスのジャポニスムに与えた影響については、別途論文としてまとめて報告する計画である。
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