研究課題/領域番号 |
19K13009
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
加藤 公太 順天堂大学, 医学部, 助教 (80734615)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 美術解剖学 / 美術史 / 解剖学 / 医史学 / メディカルイラストレーション |
研究実績の概要 |
2021年度は、日本メディカルイラストレーション学会に『人体プロポーションの歴史 -理想的人体と現実的人体の間』を投稿した。本論は美術解剖学教育で取り上げられる人体の比例に関するもので、古代エジプト時代から20世紀までの人体プロポーションについてまとめた。 18世紀の美術解剖学の歴史に関しては、やや調査が遅れているが、現在歴史論文を執筆中である。2019年に行なったイギリスとイタリアへの渡航調査や一次文献の閲覧など論文を執筆するための資料は概ね揃っており、執筆は問題なく完了できる見込みである。 中でもイギリスの医師ジョン・ブリスバンとウイリアム・ハンターが残した教材の中に「芸術家向けの解剖学は、正確な教材を使用すれば、解剖を体験する必要はない」と解説されていることがわかった。こうした解釈は、美術解剖学教育に十分な教材や教育環境が整ったことに起因すと考えられる。実際に18世紀に制作された一部の教科書や解剖模型は、現代でもリプリントまたはリプロダクション品として入手可能である。 メディカルイラストレーションの調査に関しては、当時の医学と美術がどのようなプロセスを経て教材が作られたについて具体的な参考例を知ることができた。外科医セギエとローマで就学中の彫刻家のジャン=アントワーヌ・ウードン、画家のヨハン・クリスチャン・フォン・マンリッヒの共同作業によって生まれた解剖模型である。外科医のセギエがマンリッヒに図を描かせ、そこに構造名を記載していった。これは監修作業である。さらにその図を借りたウードンは製作中の像をもとにして解剖模型を製作した。解剖模型はセギエが閲覧し、ウードンはセギエからアドバイスを受けた。これも監修作業である。この結果生まれた解剖模型は現在も教科書に掲載されているなど、長期間の使用に耐える作例になっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルスによって海外からの物品(主に古書)などの調達、渡航調査が行えなくなったため、いくつかの資料が閲覧できなかった。これらの資料に関しては二次文献討で対応して調査を補充した。現在は本研究のまとめとして論文を執筆中である。論文の投稿は2022年中に行う。 本研究は、当時普及していた教材を中心にして調査を行なった。これにより現代でも使用されている教材のいくつかをリストアップすることができた。 メディカルイラストレーションに関しては、医師と画家がコラボレーションを行うことで教科書や解剖模型などの教材が生まれていることがほとんどであったが、解剖図専門の画家がおらず、美術解剖学の教材から読み解ける関係は希薄であったため、画家の名前と制作プロセスに関して調査の焦点をしぼることにした。
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今後の研究の推進方策 |
研究期間を2022年度まで延長した。2022年度にはこれまでの調査をまとめ、18世紀の美術解剖学の歴史に関する論文を日本医史学雑誌に投稿予定である。論文の核となる18世紀の美術解剖学で生まれた教育理念は、イギリスのブリスバンとハンター(兄)が残した教材の中に端的に解説されていることがわかった。それは「芸術家向けの解剖学は、正確な教材を使用すれば、解剖を体験する必要はない」という理念である。この教育方法は現代でも一般的に使用されている理念であり、これ以前の時代と大きく異なっている。また、当時の教材にはジャン=アントワーヌ・ウードンの解剖模型など、現代でも使用されているものが出現しているため、美術解剖学にとって十分な教育環境が整ったのが18世紀であったと考えられる。こうした例をまとめ、歴史論文を執筆する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究期間を延長したため、2021年度の未使用予算が繰越となった。論文執筆に必要な二次文献の購入費用に充当する。
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