最終年の研究結果としては、解剖学者アルビヌスによって1748年に出版された大判の解剖図譜『タブラエ』によって、イギリスの王立美術院を中心に芸術家の解剖不要論が起きた。解剖不要論の中心となった人物は解剖学者ウイリアム・ハンターであるが、後世に影響力を持ったのは外科医ジョン・ブリスバンの教科書である。この教科書は最も精巧な『タブラエ』の縮小版で、個人で手に入れることができたため普及した。立体模型に関してはフランスのジャン・アントワーヌ・ウードンの筋肉模型で、外科医セギエの監修と画家ヨハン・フォン・マンリッヒの図を参照したことによってヨーロッパ各地の美術学校に普及した。これらの研究結果からは、実際の解剖が不要となるほど実用的な教材が18世紀に出現したこと、および監修や第三者の図を参照することによって実用的な教材を製作していたことがわかった。ブリスバンの教科書は19世紀中頃にフランスの美術解剖学が主流となるまで普及し、ウードンの立体模型は『スカルプターのための美術解剖学』(2016、ボーンデジタル)など現代的な教科書にも影響を与えている。 研究期間全体の業績としては『美術解剖学とは何か』(2020、トランスビュー)、『名画・名彫刻の美術解剖学』(2021、SBクリエイティブ)などの著作のほかに、「美術解剖学講義 人体表現の歴史を探る」「美術解剖学講義-名画・名彫刻の構造を探る-」(2022、朝日カルチャーセンター)などの講義・発表がある。
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