研究課題/領域番号 |
19K13015
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
村木 桂子 関西大学, 東西学術研究所, 非常勤研究員 (20814966)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 徒然草 / 版本 / 挿絵 |
研究実績の概要 |
近世初期になると出版文化の興隆にともない、『源氏物語』や『伊勢物語』などをはじめとする古典文学が町人などの幅広い階層に享受された。同時にそれらは屏風や掛幅、絵巻、絵本などさまざまな形式に絵画化されることによって、これらの物語の情景は、貴賤を問わず多様な階層に愛好された。『徒然草』においても例外ではなく、版本の流行と同時に絵画化され、「徒然絵」ともいうべきジャンルを形成し、敷衍していった。 本研究では、この「徒然絵」が近世に出版された注釈書などの挿絵を図様の源泉としていることに注目する。まず、「徒然絵」の源泉と考えられる挿絵が、注釈書のどのような主題/場面を選択して絵画化することによって、出版の目的を達成しようとしているのかを明らかにする。このことを通して、挿絵に依拠する「徒然絵」がどのような場で、どのような受容者によって利用されることを想定して制作されたのかを考察し、近世における古典主題の絵画化の全容を解明する足がかりとすることを目的とする。 2023年度は、徒然草』の版本が集中して出版された貞享、元禄期(1684~1704)の挿絵の分析を中心に行い、挿絵に見る時代性、風俗描写の特質を考察し,町人階層、特に古典文学の初学者にとって教育的配慮が散見されることを明らかにした。また、初学者にとって馴染みの薄い古代中国の故事を題材とした逸話に注目し、江戸時代に京、大坂で刊行された画譜類を調査し、共通する図様やモチーフを抽出し、分析をおこなった。さらに、狩野派の絵手本や漢画系故事人物図の図様と比較し、分析をおこなった。 その内容は、「元禄期における『徒然草』の版本挿絵」(『関西大学東西学術研究所紀要』第56輯、2023年7月)、および「『徒然草』の版本挿絵にみる中国逸話の絵画化」(『関西大学東西学術研究所紀要』第57輯、2024年7月刊行予定)で明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2023年度は、昨年から引き続き大画面絵画の調査計画が中止、延期となったため、当初の予定していた計画を変更し、『徒然草』の絵本、版本を主たる対象として作品調査を行った。あわせて、江戸時代に出版された画譜類、絵入り版本の図様の比較、分析を行い、現在に至っている。このように若干の方針転換を行ったため、進捗状況はやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度の2024年度は、これまで行った絵入り版本の図様の調査、分析を踏まえて、有職故実、異国表現、時好性を示す風俗描写に注目し、これらの描写がどのような受容者のために、どのように利用されていたのかを考察する。あわせて、同時代に出版された絵入り版本、画譜類などとの比較検討を行い、制作背景、制作目的についても明らかにする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用金額が生じた理由は、当初予定していた文献資料の閲覧、調査に必要な物品費、旅費、人件費、謝金を使用しなかったことが挙げられる。これらは今年度に行う国内での文献調査の費用として使用できると考える。 ただし、海外での調査が中止となったため、旅費、人件費、謝金、物品費の一部は未使用になる見込みである。
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