研究課題/領域番号 |
19K13017
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館 |
研究代表者 |
三笠 景子 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, 学芸企画部, 主任研究員 (80450641)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 伊万里金襴手 / 日本工芸 / 金銀彩 |
研究実績の概要 |
まず、日本陶磁における金銀彩作例の網羅的調査という目的のもとに、未調査の実作品の調査や研究につとめた。具体的には、金銀彩が施された京焼、および京焼が生産されたのと同時代に位置づけられる17世紀後半~18世紀の絵画、漆工作品(京都市立埋蔵文化財研究所、京都国立博物館、個人所蔵)や、17~18世紀に位置づけられる輸出向けの伊万里金襴手(神戸市立博物館)をとりあげた。 さらに、現代陶芸における金銀彩のひとつのあり方として、黒と赤の単色を基調とする軟質施釉陶の茶碗、樂焼の伝統の世界にありながら、積極的に白や緑、銀などの他色の土や釉を用いて独自の新しい世界を拓いた樂直入氏に楽焼、さらに京焼や日本美術をテーマに「金銀彩」のあり方についてご意見をうかがうことができた。また、金彩が多用されたことで知られる薩摩焼について、制作と歴史に詳しい研究者の深港恭子氏にも教示を賜った。このほか、博物館の業務で韓国国立中央博物館、康津青磁博物館に滞在した際、本研究に関連して高麗青磁および、高麗古墓出土の中国陶磁における金銀彩の調査を行なうことができた。 また、金彩がどのように工芸作品にとりいれられたか、という技術的な問題を考えるにあたり、琉球王朝時代の美術工芸の復元事業が手がかりになった。これまで申請者は陶磁、または一部の漆工作品とのかかわりにのみ調査・研究の対象をしぼっていた。また、上絵具という点でも金と銀にのみ着目していた。しかし、絵画や染織をも含め、賦彩に用いる材料や着色の技法について、分野を越えて重なりや相関性がみとめられる琉球王朝の美術制作のあり方は、今後、本研究を進めるにあたり、新しい糸口となるものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の目的である「網羅的調査」という意味において、数量的な調査をもう少し進めたいと考えている。さらに、京焼と肥前有田の製陶に象徴されるように、日本陶磁における金銀彩の装飾が顕著にみとめられる17世紀後半から18世紀にかけた時期の、漆工や染織など他工芸や絵画作品の動向について、より広範な考察を目標とするとともに、伝統的な日月表現といった金銀彩の下地となる室町時代以前の絵画史の動向も、あらためて本研究の考察の対象としたい。 また、申請当初、想定をしていなかった琉球美術への視点、インド(染織、細密画)や東南アジア、朝鮮美術への視点は、本研究をより深めるための新しい手がかりとなるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定先での作品の「網羅的調査」を進めるとともに、対象の時代を17~18世紀以降にまで広げていく。さらに、漆工や染織、絵画史の概観、国外の美術作品に関する各研究史を通じ、金銀を用いた表現のあり方について先行研究の資料収集、それに基づいた考察を進める予定である。 また、2019年度の調査で得た新しい視点に基づいた調査研究も、沖縄やインド、東南アジアの美術に詳しい専門家の教示を受けながら、対象としたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度に継続して、国内調査、おもに都内・関東近県、さらに九州北部における磁器窯や琉球工芸に関する調査にあてるとともに、他工芸および絵画史における金銀彩のあり方に関する参考文献、資料の収集に使用する予定である。
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