2022年度は前年度に継続して楽茶碗、仁清、尾形乾山の作品調査を行なった。加えて近現代のやきもの、なかでも明治期海外輸出向けの薩摩焼や個人作家の作品に施された金銀彩や、金属的な光沢を放つラスター彩が特徴の11~12世紀のイスラーム陶器に着目し、調査を行なった。また、制作側の視点として金銀彩を用いる手法やその意義について、薩摩焼工房、京焼作家、東京藝術大学等に教示を仰いだ。 本研究では、日本陶磁における金銀彩の作例を網羅的に調査、生産窯または作者別、年代順に整理することを第一の目的とした。途中、新型コロナウイルス蔓延により調査を断念せざるを得ないところもあったが、当初目的とした17世紀後葉の有田焼と仁清、18世紀初頭の有田焼や乾山、幕末の永楽保全・和全の作例のほか、近代の輸出薩摩や現代作家の作例、イスラーム陶器やヨーロッパの磁器、さらに金属を用いる陶磁器修復の歴史とその例等、調査研究の対象を大きく広げることができた。成果は美術史学会東支部例会発表、またイスラーム陶器の調査研究については神田惟氏の教示を仰ぎ、東京国立博物館での特集展示で公開した。 また、本研究期間に東京国立博物館で開催した特別展「桃山―天下人の100年」(2020年度)、「琉球」(2022年度)に携わり、障壁画や金工、漆工作品など別の分野における金銀彩のあり様を実見することができ、陶磁器における展開を考えるうえで重要な視点を得る契機となった。 本研究を受けて、絵画や漆工作品と異なり、陶磁器の場合「焼成」という工程が必須であり、着彩が困難であるにもかかわらず、16世紀後葉以降今日に至るまで、断続的ながらも胎や釉、焼成温度などに工夫を重ねて金銀彩を積極的に試み、さまざまな表現技法を確立して伝え続けてきた点は、日本陶磁の特性であると結論に至った。今後は、本研究で得た成果を文章化し、陶磁史研究の視座を高めたいと考える。
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