本研究は羅漢の国内外の造形作品(絵画・彫刻)の実地調査を行い、中世における信仰の実態や羅漢を用いた諸儀礼の在り方を検証することを目的としている。 まず、昨年度に引き続いて東京・光明寺の羅漢図の光学調査を実施し、画面に用いられている彩色の材料同定を共同で進めた。研究成果として本羅漢図の図像や表現、そして彩色について共著論文を執筆した。特に図像と様式に関する論考で、本図が舎利信仰を示す元時代の作例であることを指摘した点は、羅漢図制作の背景を具体的に明らかにする上で極めて重要と言える。年度の後半には感染症の流行によって延期していた神奈川・円覚寺所蔵の五百羅漢図および大分・羅漢寺の石造五百羅漢像の調査を実施した。円覚寺本はこれまで調査を行ってきた大徳寺伝来五百羅漢図(南宋時代)、東福寺所蔵五百羅漢図(南北朝時代)と同様、清規に基づいた羅漢の生活を描いた画幅(「入浴」・「食事」等)について調査・撮影を行った。本羅漢図に関しては、当所の画幅が元時代、後に補われた画幅が室町時代の製作とされているが、調査の結果からなお検討を要すると考えられ、図像を含めて引き続き考究していく。大分・羅漢寺は特に食事のしぐさを示す石造羅漢像の位置群を中心に調査を実施。併せて山内に位置する石橋や石造弥勒菩薩像、滝などの実地調査を行い、羅漢寺が位置する耶馬渓という土地そのものが中国・天台山の地理的な条件に近いことを確認した。渓谷沿いに羅漢信仰の地を置くことは昨年度に調査を実施した山梨・天台山羅漢寺と同様であり、地理的な条件と羅漢信仰との関わりの重要性は今後検討する。
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