研究課題/領域番号 |
19K13019
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研究機関 | 独立行政法人国立美術館東京国立近代美術館 |
研究代表者 |
桝田 倫広 独立行政法人国立美術館東京国立近代美術館, 企画課, 主任研究員 (70600881)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 現代美術 / 絵画 / イギリス美術 / グローバリズム / ポストコロニアリズム |
研究実績の概要 |
2022年度については、主に二つのテーマを設け、研究を進めた。ひとつは、昨年度の「今後の研究の推進方策」で挙げていたゲルハルト・リヒターについてである。リヒターについては主に二つの観点から考察を進めた。ひとつは彼自身の作品研究である。とりわけ彼が世界的な名声を得た後に取り組んだスタイル、いわば後期様式についての調査を行った。そして、その成果としての論文は2022年、東京国立近代美術館で開催された「ゲルハルト・リヒター」展のカタログにおいて掲載された。もうひとつは論文などの具体的な成果にはなってはいないが、主に英米圏でのリヒター受容である。1988年には北米で大規模な巡回展が組織され、ついで1991年にイギリスで初めて開催されたリヒターの回顧展では、リヒターが書いてきた日記が英訳された。それ以前はドイツの作家だったリヒターが英米圏での評価を経て、世界的な作家とみなされるようになった。またニューヨークに渡ったドイツ人美術史家ベンジャミン・ブクローが、リヒターが新しいシリーズを生み出すたびにドイツ語および英語で論文を発表してきたことも大きい。 二つ目は、一昨年の「今後の研究の推進方策」で挙げていた1990年代後半からイギリスの現代絵画のシーンで登場する非白人の作家についての調査・研究である。2022年度においては、ロンドンで生まれたガーナ二世の画家リネッテ・イアドム=ボアキエに焦点を当てた。ボアキエは黒人女性画家のなかではテート・ブリテンで初めて個展を行った画家で、一貫して黒人の肖像画を描いてきた。イアドム=ボアキエがたびたびインタビューで述べてきた「normality」というキーワードを手掛かりに、ロンドン生まれの移民二世が欧米の絵画の様式に則って絵画を描くことの意味について考察を行い、その成果を『東京国立近代美術館 研究紀要』第27号にて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度は久しく実施できなかった海外調査を行うことができた。それにより知見を深め、また大きな発見を得ることもできた。国際展の視察ではロンドンで活動しているジンバブエ出身の具象画家であるKudzanai-Violet Hwamiの作品を見ることができたのをはじめとして、作品を実見することをつうじて近年の欧州を中心とした絵画動向につい確認することができた。絵画を主な表現手段としていないが、イギリスのソニア・ボイスやアメリカのシモン・リーといった黒人や女性の置かれた境遇を主題とした黒人作家の作品も見ることができ、多文化主義以後の黒人作家による多様な表現のありようを調査することができた。また、イギリスでの出張においては、イギリスにおいてブラック・アート・ムーブメントの草分け的な存在であるルバイナ・ヒミッドやガーナ二世の若い具象画家であるリネッテ・イアドム=ボアキエの実作を鑑賞し、またテート・ライブラリーやコート―ルド研究所のライブラリにて調査を進めることができた。しかしながらそれらを当科研費の本来の最終年度である2022年度でまとめることは難しかったため、本研究の終了を1年延長できるよう申請を行った。2023年度では残った研究費を活用し、当科研費をまとめられるよう研究を進めていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、数年来積み残しとなっている研究課題をまとめる年と位置づけたい。課題は下記のとおりである。 1. 90年代以降の非白人作家の表現について 2022年度については、イアドム=ボアキエについて書くことができたが、2023年度については、これまで研究対象として挙げてきたように、クリス・オフィリ、ハーヴィン・アンダーソンら黒人の具象画家に焦点を当てながら、他の非白人作家についても調べを進めていく。そのことによって、非白人にルーツをもつ作家たちが、西欧の伝統に深く負う絵画という形式をどのように扱い、そしてその形式のなかでいかなる表現を試みているのかを検討する。 2. マルティン・キッペンベルガーについて 2021年度の当科研費の「今後の研究の推進方策」で挙げていたように、2000年代半ばにおいてイギリスなどをはじめ西欧で、ドイツ人作家マルティン・キッペンベルガーの再評価が進んでおり、彼の仕事が現代絵画に大きな影響を与えていることが分かった。マルティン・キッペンベルガーの絵画についての調査・研究を行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により海外調査が行えず、計画通りに出張ができず調査が遅れてしまった。しかしながら2022年度に海外調査を行い、調達すべき資料のあたりもついたため、残額を研究書の購入費に充て、それをもって研究を進めていきたいと考えている。
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