最終年度にあたる本年は、調査を継続しながら、これまでに実施した調査結果の集成を行った。消費地遺跡出土の陶磁器の実見調査を再開するとともに、昨年度に引き続き文献調査と関連資料の参観調査を継続した。文献調査では、17世紀後半以降の茶書において、茶道具の「繕い」(補修)に関する記述のうち、著名な茶人の逸話と関連付けて評価したものがあることに着目した。補修痕が茶道具を特徴づけるものとして受容されたことが明らかな茶書等の資料を再度確認し、17世紀以降の茶道具の移動に伴い生じた新たな価値形成や、茶道人口の増加が補修痕の受容にも影響を与えた可能性について検討した。また、金繕いの普及状況がうかがえる江戸時代後期の出土遺物の実見調査や、近代の漆芸家による文化財修復における金繕いの導入、作家による意匠としての利用に関する調査等を通じ、江戸時代後半から近代にかけて金繕いが普及する状況を確認した。これらの調査結果の一部は、所属研究会における口頭発表により報告を行った。 本研究は、補修痕をもつ陶磁器に関するデータを幅広く収集し、データベースを構築することによって発展させることを計画していたが、本年度も新型コロナウィルスの影響により、当初予定していた国外出張を伴う調査研究を行うことができなかった。また、国内出張を要する実見調査についても同様に、研究計画通りの実施は困難であったため、研究期間全体を通じて進捗はやや遅れ、研究計画を変更する必要が生じた。しかし、重要資料の実見調査や入手可能な文献資料による調査に注力しながら、遠隔地で開催された学会へのオンラインでの参加などにより最新の研究動向を把握し、学術交流を通じて新たな課題を見出すことできた。
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