従来、「物語」は言葉と強く結びついていると捉えられてきたが、一方で画像を伴うジャンルにおいても「物語」は表現されている。画像が主体となる絵本の分野では、近年欧米で「文字のない絵本」が盛んに発表されるようになり、移民や多国籍の児童が混在する教育現場ではその活用の可能性が注目されている。2015年には「文字のない絵本」の名作500冊を集めた書籍が発表され、また文字のない絵本であるショーン・タン『アライバル』(2006)は日本でも6万部を超える大ヒットとなっている。このように、絵(画像)が主体となって伝達の役割を担う物語表現への関心が高まっている。 本研究では、物語絵本において、「文字のないページ」の表現は物語内容を表す上で独自の役割を担っていて、作品の成立に実質的に大きく貢献しているのではないかという仮説のもと、国内外の絵本において文字のないページを含むものがどれくらいあるのか、またそれが物語表現にどのように作用するのかを調査した。研究対象は国立国会図書館国際子ども図書館所蔵の資料を中心とし、本研究ではその作用を5つのタイプに分けて分析した。 R4年度は残っていた資料の収集とデータ化の作業を進めた。また、これまでの分析・考察をもとに、研究成果を広く公開し、実践的な制作へ応用することを目的に、制作者向けハンドブックを作成した。絵本の制作者が文字のないページが果たす役割に理解を深め、効果的に活用できる参考資料となるよう、これまでの論文やデータを見直し、よりわかりやすい文章にまとめ直した。ハンドブックは、絵本作家を目指す学生や絵本教育を手掛ける教員、絵本の編集者など、関係者へ配布した。配布した関係者からのフィードバックを今後の研究へ発展させられると考えている。
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