本年度は、多声音楽の音楽書法である対位法の実習システムの構築と、そのための基礎技術の開発を行った(現状はシンプルな一対一対位法のみの実装であるが拡張可能である)、これはユーザーがウェブサイト上で与えられた旋律(定旋律)と同時に演奏されるもう一つの旋律(対旋律)を入力し、自動的に添削することで自習を可能にするシステムである。その機能は主に二つである。第一の機能は、対位法の多数の規則をチェックし、修正すべき点がどこにあるかを指摘することである。第二の機能は、対旋律の模範解答を生成することである。前者についてはチェックすべき規則をプログラムに変換するだけで実現可能である。後者については複雑な制約充足問題を解く必要がある。そこで、整数計画法を応用して対位法の規則を数式の制約で表現し、制約を満たす解を効率的に求解する手法を開発した。さらに、複数存在する解の中でユーザーが作成したミスを含む旋律との類似度を目的関数として最適化を行うことで、単に模範解答の一つを得るだけではなく、ユーザーが自身で作成した対旋律をどのように修正すれば模範解答にたどり着くのかまでも提示できる手法を確立した。
研究期間全体の成果としては、制約充足と離散最適化という二つの計算論的手法を用いて楽曲スタイルや音楽理論をモデル化する可能性を示し、また人間のユーザーの入力との相互作用によりユーザーに応じた適切なフィードバックを与えるという音楽書法の実習支援システムのあり方を、限定的なケースについてではあるが示すことができたと考える。
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