研究実績の概要 |
本研究では、20世紀以降の西洋音楽史の記述における前衛主義を相対化するために、近年のアメリカで刊行された音楽史書の記述を調査し、20・21世紀の音楽のレパートリーの変化を明らかにすることを、行程の一つとして構想している。 本年度は、J. Peter Burkholder, Donald Jay Grout, Claude V. PaliscaによるA History of Western Music (New York, Norton)[以下、HWMと略記]の第9版(2014年)と第10版(2019年)を対象に、20世紀以降の記述で取り上げられているレパートリーのデータ化を行った。邦訳のあるHWMの第5版(1996年)と、近年刊行された第9・10版の構成を比較すると、20世紀以降の章は大きく改定され、大衆音楽の興隆と芸術音楽の伝統的発展が並行して描かれる構成になっている。本年度に行ったデータ化の作業を、次年度には第5版(1996年)までさかのぼって進め、考察の結果を公表する予定である。 その他、本年度はフランスの作曲家ベルリオーズの没後150年を記念する国際会議に参加し、音楽史叙述の課題と可能性について、参加者と意見交換を行った。議論のなかで、ベルリオーズからドビュッシー、メシアン、スペクトル楽派へと連なるフランス音楽の系譜が示され、現代からさかのぼって19世紀音楽史を再編する可能性が示された。
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