研究課題/領域番号 |
19K13025
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研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
塚田 花恵 東京藝術大学, 大学院音楽研究科, 研究員 (60734192)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 音楽史教育 / 音楽史記述 / 20・21世紀音楽史 / 現代音楽 / ヴァナキュラー音楽 |
研究実績の概要 |
前年度に引き続き、米国のノートン社が刊行する西洋音楽史の学習書『A History of Western Music』(以下、HWMと略記)を対象に、第5版(1996年刊行)から最新の第10版(2019年刊行)までの、記述の変遷を調査した。 HWMでは、P. J. バークホルダーが執筆者となった第7版(2006年刊行)以降、現代音楽史の大幅な書き換えが進み、〈ヴァナキュラー〉の音楽――ミュージカル、映画音楽、ジャズ、ポピュラー音楽など――が、20・21世紀のレパートリーの大きな部分を占めるようになっている。本年度の研究では、まず、20・21世紀音楽史で取り上げられている作品のリストを作成した。そして、バークホルダーによる現代音楽史の記述を、彼の音楽史教育に関する論考とあわせて、分析した。 その結果、以下の特徴が明らかになった。まず1点目は、バークホルダーは、モダニズムを相対化し、現代の音楽文化のより包括的な記述を行うために、〈クラシック〉と〈ヴァナキュラー〉という二つのカテゴリーを導入していることである。2点目は、彼は現代音楽史の全体のナラティヴを、〈クラシック〉と〈ヴァナキュラー〉という二つの音楽文化が対立し、20世紀後半以降にはクロスオーバーしていくものとして、描いていることである。そして3点目は、そのナラティヴに沿って、音楽作品の事例が選択されていることである。 HWMの現代音楽史記述には、以下の問題があると考えられる。それは、作品事例が〈クラシック〉と〈ヴァナキュラー〉のクロスオーバーに偏る傾向がある点、また、〈ヴァナキュラー〉音楽の記述が米国の事例に限定されている点、そして、それらの世界各地での受容についての記述が欠けている点、である。上記をまとめた研究報告では、これらが日本での音楽史教育の現場でもたらしうる弊害について、指摘を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、本研究課題の最も重要な作業であるHWMの記述の分析を、完了させることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究から、HWMの現代音楽史記述の問題点が明らかになった。今後は、その他の現代音楽史の可能性を探るために、フランスの音楽史記述と音楽史教育の事例の調査を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、新型コロナ感染症の影響により、国外で資料調査を行うことができなかった。 次年度も海外渡航が難しいには、資料を購入して揃え、調査を進めたいと考えている。
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