研究課題/領域番号 |
19K13036
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研究機関 | 多摩美術大学 |
研究代表者 |
チン ホウウ 多摩美術大学, 大学院美術研究科, 助教 (80838590)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 紙本 / 画紙 / 日本画 / 墨 |
研究実績の概要 |
2020年度は、前年度の調査を踏まえて、大正時代から明治時代に活動した日本画家が、作品制作において、滲みの表現に重きを置いていたことを中心に画家研究を進めた。紙本絵画を中心に制作を行った日本画家の中でも、小杉放菴と横山操を考察した。 洋画家から日本画へ転向した小杉放菴(1881-1964)は、西洋のナビ派や象徴派の傾向が強い、装飾性を重んじる描画表現から、墨を用いた線描による水墨表現へと転換していた。「小杉放菴日光記念美術館」に所蔵されている放菴の作品を実見からは、放菴が「放菴紙」の滲みをモチーフの描写に活かしていたことが考えられた。放菴紙では繊維が絡むことによって太い繊維が凸部を作り運筆時に抵抗を与える。放菴は生の放菴紙の上に、墨と渇筆を用いることで生じた画紙の模様を活かし、石の質感を表現していた。また、放菴紙は褐色で繊維の模様を持つ画紙である。このような画紙を余白の表現に生かしたことからは、画紙自体にも余白としての表現力があり、描写に応じて望ましい効果を出す力があると考えられた。 他方、支持体の選択と制作主題の関係を明らかにするため、戦後の日本画壇を代表する横山操(1920-1973)を調査した。多摩美術大学に収蔵された103枚のスケッチを中心に調査を行い、作品の下絵やスケッチの筆跡を辿ることで、作家の制作意図や制作過程の推測を試みた。 これらの調査から、近代日本画壇においては、自己の創造性の発露として、思索を重ねる中で新たな絵画表現を生み出すことが重要な課題であったことが考えられる。また、新たな作品を生み出すためには、作品の主題や用いる技法の考案を含め、画紙の選択も重要な要素であることが分かった。 さらに、調査結果からは、作品の表現意図と画紙の選択は密接な関係にあることが分かった。これを踏まえ、麻紙、画仙紙、典具帖紙を用いて制作実践を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2020年度は、前年度の調査を踏まえて、紙本絵画を中心に制作を行った日本画家、そして洋画家から日本画へ転向した画家の近藤浩一路の作品を考察する予定であった。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響のため、美術館で直接作品を実見することができず、作品と画紙の分析が遅れている。 同じ理由で、高知県の麻紙、中国・韓国の紙の抄造についても現地調査ができていないため、研究の進捗状況は遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度はこれまで行った史的調査および作品分析を踏まえて、制作者としての実践研究に重点を置き、画紙の大きさ、厚み、墨の発色、岩絵具による厚塗りの技法などの分析から、新しい展開への可能性を追究する。 史的観点から東アジアの水墨表現及び画紙の関係性に言及するため、日本と同じく楮を中心に紙を抄造している中国と韓国での調査を予定していた。しかし、新型コロナウイルス感染拡大の状況を鑑み、製紙過程及び作品実見のための現地調査は次年度に延期する。あるいは、可能であれば、オンラインツールを使用して聞き取り調査を進める。 制作実践においては、日本各地・中国・韓国の画紙を取り寄せ、制作実験を行う。特に画紙の原料に着目して、それぞれの画紙の特性を最大限に活かすことを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は、前年度の調査の続きとして、近藤浩一路に対する画仙紙(作品実見申請:山梨県・近藤浩一路記念南 部町立美術館、山梨県立美術館)における、作品の制作方法と水墨表現の特徴に明らかにする。 調査対象とした美術館(山梨県)への移動はレンタカーや鉄道を利用するため、交通費を計上する。作品の画像を引用するために美術館へ借用する場合、作品撮影・作品借用費を計上する。 そして消耗品費として、申請者は先行して行った研究にて、基礎的な資料収集を行ってきたが、不足している関連文献の費用を計上する。資料は経費消減のため、図書貸し出し可能なものは、貸出しにより利用する(交通費・文献複写費)。そして、作品実見調査を行うために、デジタルカメラとデジタル顕微鏡を計上する。デジタルカメラは作品の写真撮影に使用する。デジタル顕微鏡は画紙の繊維の絡め具合調査するために、拡大写真取るために計上する。そして印刷のため、プリンター、インクジェットを計上する。 また、実践研究費用において、多種の和紙と画仙紙、韓紙を計上する。それに関連して成果物を還元するための画材と制作に必要な物を計上する。
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備考 |
寄稿論文「横山操のスケッチに見られる日本画制作の試み-多摩美術大学所蔵横山操のスケッチを中心に-」『現代日本画の系譜―タマビDNA』(展覧会図録)、2021年、384-399頁
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