研究課題/領域番号 |
19K13036
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研究機関 | 多摩美術大学 |
研究代表者 |
チン ホウウ 多摩美術大学, 美術学部, 講師 (80838590)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 韓紙 / 埔里 / 棉宣紙 / 京和紙 |
研究実績の概要 |
2023年度には、東アジアの画紙の歴史および絵画表現に焦点を当て、大韓民国と台湾で現地調査を行なった。 韓国の製紙歴史は、独自の発展と隣国との影響関係によって展開されてきた。朝鮮半島では、中国から伝わった製紙技術を基に、紙文化が発展してきた。日本の植民地時代には、製紙政策が大きな転換点となり、製紙法を改良され、原料、製造方法が変化した結果、さらに韓紙が普及された。また、日本植民時代の絵画表現には、朝鮮美展という公募美術展が開催され、朝鮮的な主題や表現が重視された。近年、韓国の画家たちは韓紙を使用して作品を制作しており、Kim Ho-deuk氏の作品は特に注目されている。彼の作品は伝統的な東洋画を現代的にアプローチし、韓紙を使用している。 他方、台湾の画紙に関する調査も行なった。台湾南投県埔里鎮は、清水で知られ台湾製紙の中心地である。1935年、日本統治時代に、埔里が紙の製造に適していると考えられ、埔里製紙所が設立さた。紙漉き技術が導入され、全盛期には二十数軒の工房が存在した。高品質の画紙として、棉宣紙や京和紙が生産された。戦後、日本人が撤退しても、1960年代以降、多くの製紙所が絵画用の手漉き画宣紙や棉紙を製造されていた。韓紙の原料は日本と同様に主に楮です。台湾の画紙の原料は楮や雁皮だけでなく、真桑も重要な材料と言われる。そして木質の靭皮繊維だけでなく、現地の植物や果物の繊維も使用され、バナナやマコモタケ、パイナップルなどがそれぞれの紙の製造に活用されている。また、ネリについて、日本では黄蜀葵が主に使用される一方、台湾ではカイエンナッツの根から採取されるネリを利用する。 日本植民地時代には、大韓民国や台湾に製紙技術が導入し、製紙工業が盛んた。日本が撤退した後も、両地域は独自の製紙文化が発展され、現在の画家たちはその特性を活かしながら独自の絵画表現を追求していることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年から2021年にかけて、日本国内の画紙に関する歴史的調査と実践研究を実施した。2022年には、画紙の原料の産地や繊維の分析を行い、地域や気候、土地環境の違いが楮の成長に与える影響を明らかにした。その結果、日本全国の画紙には異なる特性が見られることが分かった。画家たちは画紙の特性を活かし、独自の技法を展開していることが明らかにした。さらに、海外渡航が緩和されたのため、2023年には東アジアで製紙工程や作品を実際に見る機会を得られた。以上から、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今までは日本と東アジアの紙の歴史と製造について調査を行なった。今後は近代の画家たちがどのような表現手法を用いたかに焦点を当てる予定である。横山大観と近藤浩一郎に注目し、墨の表現と画紙の関係を明らかにする。そして、今年度はこれまでの研究成果をまとめ、「近代日本画における画用紙の特性による技法の展開と実践に関する研究報告書」(仮題)を作成し、パネル展示を通じて公開する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2024年度は、日本国内の調査地(高知県・山梨県)への交通費、調査費用を計上する。そして、研究成果を公開するために、研究報告書の印刷費、編集費および展覧会開催に必要な経費(宣伝費・発送費・運搬費など)を計上する。
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備考 |
作品発表:「2023瀛風飄藝美展」新營文化中心(台湾)(2023年7月7 日-8月13日)、「第50回創画展」入選/東京都美術館(2023年10月24日-30日)・京都市京セラ美術館(2023年11月7日~12日) 図録記事:『2023瀛風飄藝美展』(展覧会図録)、「認識膠彩」を執筆
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