統計的仮説検定は仮説を検定する一般的な方法だが、近年この検定法の誤解や誤用が氾濫し、様々な分野で警鐘が鳴らされている。統計的仮説検定はフィッシャー流の有意性検定とネイマン‐ピアソン流の仮説検定を混成した検定法である。フィッシャーとネイマン‐ピアソンは検定法の前提、目的、適用範囲、意義などの科学哲学的問題をめぐり激しい論争を繰り広げた。この論争は解決をみずに終結し、現在でも科学哲学的問題は棚上げにされたまま統計的仮説検定が使用されており、そのことが誤解や誤用の大きな要因と考えられる。 そこで本研究では、「統計的仮説検定がなぜ誤解や誤用されるのか」という問いを科学史・科学哲学の観点から考察する。そのため、フィッシャー流の有意性検定とネイマン‐ピアソン流の仮説検定の前提、目的、適用範囲、意義などを科学哲学の観点から比較し、また二種類の検定法が統計的仮説検定へと混成された経緯について史的考察を加える。それにより、統計的仮説検定の誤解や誤用を正し、適切な使用法を提示する。 そのため令和3年度は、科学哲学者のD.メイヨのStatistical Inference as Severe Testing(2018)やE.ソーバーの『科学と証拠』(2012)、科学史家のS.スティグラーのThe History of Statistics(1990)などの科学史・科学哲学関連の文献を精読し、統計的仮説検定によって何がわかるのかという認識論の問題に取り組んだ。これにより、有意性検定と仮説検定を混成して統計的仮説検定を考案した経緯を検討した。
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