フェミニスト科学哲学はその内部に複数の路線・立場を含むが、科学的知識産出共同体の「多様性(diversity)」を強調する点はおおむねすべての立場に共有されている。また、それらの立場においては、多様性は、たんに倫理的・社会的な要請としてだけではなく、科学的知識の客観性にたいして有効に機能するものとして、つまり科学的知識の内容にかかわる認識論的な利益をもたらすものとして主張されることが多い。本研究では、フェミニズム科学哲学内部での代表的な立場を区分整理し、それぞれの立場が依拠している「多様性」概念を明確化したうえで、科学的知識の客観性と科学的共同体の多様性の関係にかんする各立場の主張を精査した。
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