従来、研究が手薄であった近世前期における勧化本の動向を、作家の活動に焦点を当てて個々に論じることで、当該時期における勧化本の全体像を解明した。勧化本の趨勢を担ったのが、羊歩・知空・空誓・了信ら浄土真宗本願寺派であることを示した。西本願寺は元禄期までに相伝と決別する。その過程で、本来であれば口伝により受け継がれるべきであった説法が勧化本として上梓されるようになった。また、羊歩の前身は浄土宗僧であり、その著述に浄土宗宗学の影響を強く見いだせることを、同じく浄土宗僧侶の真海が著した『浄土勧化標目章』との内容重複から示した。出版はまた、本来独自性のあった各宗派の宗学をハイブリッド化させたのである。
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