研究実績の概要 |
当初に予定した研究期間から1年延長して本研究の最終年にあたる2022年度は、前年度に計画したとおり、プロレタリア文学研究に関する国際シンポジウムを開催した。また、本助成を受けた研究成果として、口頭発表1件と論文2件を発表した。 国際シンポジウムは、ロシアのプロレタリア作家セルゲイ・トレチャコフの国際的名著に由来する「吼えろアジア(Roar Asia!)」と題して、7月30日と31日の2日間にハイブリッド形式で開催し、5つのセッションで、国内外からディスカッサントを兼ねた司会を含めて20名が発表した。本報告者が司会を担当した「翻訳、プロパガンダ、アダプテーション」のセッションでは、ブルナ・ルカーシュ氏が日本におけるゴーリキー受容について、萩原健氏が千田是也を媒介とした日独間の演劇のアダプテーションについて、ホルカ・イリナ氏が1950年代のルーマニアにおける日本プロレタリア文学の翻訳状況について発表し、本科研のこれまでの成果と呼応する内容であった。特に、ホルカ氏の発表に対するルカーシュ氏の応答で、旧社会主義国であるルーマニアとチェコで同時期に日本文学、特に原爆文学が多数翻訳されていた共時性が浮上し、この研究テーマは、次年度以降の新たな発展的課題につながった。 研究成果に関しては、日本で無名であったプロレタリア詩人の小林園夫がドイツで翻訳された状況を含んだ論文(『フェンスレス』第6号)、アメリカにおける「プロレタリア文学」の用例を踏まえながら日本のメディア産業におけるプロレタリア文学の戦略性を考察した論文(Humanities, Vol.11 No.6)をそれぞれ執筆し、前記の旧社会主義国における日本文学受容から発展した研究課題についてホルカ氏の主催する国際シンポジウムでの口頭発表(10月23日)を行った。
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