最終年度である本年度は、近代日本に出版されたアンソロジーを調査することで、近代の模範文例集への江戸文芸の採録状況をくわしく調査した。また各地の文学館・図書館を回り、近世文芸受容の根幹資料となる草稿資料がどの程度各地の公共施設に保管されており、どのように運用されているかということについて知識を得た。さらにこれまで発表した論考をまとめ、次年度に刊行できるよう体制を整えた。 研究機関全体を通じて、主たる研究対象である永井荷風については漢文学との関わりを明らかにした。また岩倉使節団における翻訳、矢野龍渓の西洋文化受容と漢文学受容、森鴎外の文体混淆、宮崎三昧の近世文芸利用、小林秀雄の江戸万葉学への解釈といったテーマについて論文を発表し、日本の江戸時代以来の文芸様式の変遷について、歴史的に追尋することができた。また、近代の重要な出版物について資料紹介を多く行うことで、当初目的とした文献研究と表現研究の相互補完的進展についても達成することができたと考えている。 森鴎外については国際ワークショップにて英語による口頭発表を行い、複数の国から参加した専門家陣に意見を仰ぐことができた。近代における江戸文芸享受というテーマの中核的作家である永井荷風については、荷風に関する追想録『荷風追想』を編むなど、アウトリーチ活動も積極的に行っている。 以上の研究と取り組みによって、日本近代における近世文芸の受容と変遷について、体系的な知見を呈示することができたと考えている。
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