研究課題/領域番号 |
19K13059
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研究機関 | 和洋女子大学 |
研究代表者 |
木村 尚志 (木村尚志) 和洋女子大学, 人文学部, 准教授 (80736182)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 水無瀬 / 熊野 / 水辺 / 信仰と和歌 |
研究実績の概要 |
2021年度は新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、本研究の中核部分に当たる現地踏査の実施が著しく制約された。そのため本年度は、これまで書き溜めて来た歌枕論を含めた過去の論文を単著としてまとめる作業に注力し、『中世和歌の始まり―京と鎌倉をつなぐ文化交流の軌跡―』(花鳥社、2021年9月)を出版した。その際に、2021年3月にその論考の一本である水無瀬の実地踏査を改めて実施し、最新の発掘調査の情報なども加味しつつ、後鳥羽院の「見渡せば山もと霞む水無瀬川夕べは秋と何思ひけん」の歌がどのあたりからの眺望を詠んだ歌なのかについて、百山の山上にある若山神社からの、遠くには京の町、間近に男山や三山合流地帯、眼下には水無瀬川が見渡される眺望を写真として添えながら、このような風景なのではないか、という可能性を示すなど、論文発表時には明らかになっていなかった新見を加味することができた。10月には中世の山岳信仰の中心で、唱導、軍記など、和歌とも接点のある様々な文学の故郷である熊野の実地踏査を行った。七里ガ浜の荒海は打ち寄せる波が激しくごつごつとした石しか砂浜になく、その環境ゆえに浜木綿(ハマユウ)という熊野の和歌によく詠まれる植物が生えること、沖縄の御嶽(ウタキ)のような岩石信仰があること、熊野本宮は明治以前には熊野川の中州にあったことなど、今後の研究の材料となる知見を得られた。冒頭に述べた理由によって今年度は研究費の多くを次年度以降に繰り越す形となった。最終年度に向けて、研究の密度を高めてゆく所存である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成31年度科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)交付申請書の「10.補助事業期間中の研究実施計画」には、「一年目・二年目において変化する風景、例えば松に波が打ち寄せると詠まれる住吉社の風景が鎌倉時代にすでになくなっていたことや、現在では消滅の危機に瀕している砂嘴(川から流出する土砂が沖合に堆積してできたもの)に囲まれた入江の風景、また休火山と活火山の時期があり、休火山の時期にそれを詠むべきかが問題となった富士山の噴火の煙などの問題について考察を進める」「三年目・四年目において、伊勢、熊野とその周辺の歌枕の生成と展開に関しての調査研究を進める。ここでは「聖地」を対象とする研究であり、自然の風景の持つ霊的な力のあり方を、他分野の研究を参考にしつつ明らかにするとともに、それを表現する文学がどのように時代の中で変わっていったかを文学研究の立場から明らかにする」と記載した。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大により、出張を伴う研究の自由度も、一身上の安全も担保されない状況が生じ、ともに研究遂行の上での大きな制約を受ける形となった。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度には一身上の理由により研究期間を中断し、交付年度を一年延長する予定である。最終年度に向けて研究の密度をあげて、具体的な研究成果が得られるように邁進してゆく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの感染拡大により、本研究の実施の中核部分にあたる出張を伴う実地踏査が大きな制約を受けたため。2022年度も後半に一身上の理由で研究期間を中断するため、今年度は最終年度に向けて研究成果の公表に関わる歌枕の地元の方との関係構築などの下準備に努める。
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