研究課題/領域番号 |
19K13061
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
矢島 明希子 慶應義塾大学, 斯道文庫(三田), 助教 (20803373)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 毛詩草木鳥獣蟲魚疏 / 名物学 / 博物学 / 書誌学 / 狩野文庫 |
研究実績の概要 |
本年度は、東北大学附属図書館狩野文庫蔵『毛詩艸木鳥獸蟲魚疏』(狩2-1794-2、以下『草木疏』)の書き入れの筆跡及び、狩野亨吉旧蔵書における『草木疏』の位置づけを調査するため、同図書館所蔵の漢籍調査を中心に行った。また。これらの調査と平行して、書き入れの翻字及び訓読化を進めている。 まず、『草木疏』書き入れに引用された書目を手がかりに、狩野文庫本で関連が深いとされる書目の調査を行った。2019年9月に東北大学附属図書館狩野文庫の詩経関係書籍を調査したところ、『監本詩経』(狩2-25414-4)の帙内面に「諸家論」と題され、末尾に「狩野氏蔵本」と記された藍筆の書き入れを見出した。しかし、この書き入れは、『草木疏』の書き入れとは筆跡が異なる。その他、『詩経古註』(狩2-1774-5)や『詩経集注』(狩2-1777-4)にも多くの書き入れが見られたが、いずれも筆跡が異なっていた。 2020年2月には、同図書館にて辞書類を中心に調査を行った。ここでも複数の筆跡が見られた。そのうち、『草木疏』が引用する『陳眉公訂正夢渓補筆談』(狩1-880-1)のわずかな書き入れが、『草木疏』の筆跡と近似していた。該本は写本であり、本文は別筆のようであるが、本書は今後の検討の重要な手がかりとなると考えられる。 これら漢籍調査だけでは、筆跡の同定は困難と考え、狩野文庫の国書を収めた『東北大学附属図書館所蔵狩野文庫マイクロ版集成』(丸善、199-、以下『狩野文庫マイクロ版集成』)のうち、経学・語学・薬学・博物学・植物学など、『草木疏』と関連する内容の書目を中心に、写本や書き入れの筆跡を比較した結果、『草木疏』書き入れの筆跡は狩野氏の筆とは異なるという結論に至った。これは当初の想定から離れるが、この『草木疏』の書き入れが日本における本書の受容及び、名物学・博物学史上意義のあるものと考え、本課題を続行する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請者は、これまで『草木疏』の書き入れが狩野氏によるものではないかと推測し、研究をスタートさせたが、本年度の調査により、それが誤りであったことが確かめられた。この点において、本研究は後退したと言える。しかし、筆跡の確認は本研究の基礎になる課題であるため、狩野氏の筆ではないという結論を得たことは、不確実な要素を一つ排除できたとも言えよう。 東北大学附属図書館が所蔵する膨大な狩野氏旧蔵書のうち、国書の多くは『狩野文庫マイクロ版集成』で閲覧が可能だが、漢籍については当地にて調査する必要があり、2019年度は詩経類及び辞書類など18点を閲覧・調査した。『草木疏』が本草書的な内容を含んでいることから、本草諸関係の調査も必要であるが、本年度は及ばなかった。来年度の実施を目指す。 その他、東京大学駒場図書館にて、狩野氏の蔵書目録である『蔵書目録』仁義礼智信、『書籍目録明治三十一年以降追加之部』、『狩野氏蔵書和漢書名細目録明治四十年現在(稿)』(すべて第五函、鑑定一)等を調査し、これらが狩野氏の旧蔵書全体を知る手がかりになり得ることを確認した。 以上の調査と平行して、書き入れの翻字・訓読化を進めている。本年度は、草・木・鳥・獣・蟲・魚部の一通りの翻字を行った。訓読化はまず草部から始めているが、草部は70篇と最も篇目が多く、書き入れも多い。現在、草稿として30篇ほど進めた。この作業を通じて、引用書や関心事項によって、書き入れをした者の学問傾向が浮かび上がるのではないかと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
『草木疏』の書き入れが狩野氏によるものでないことが判明したが、狩野氏自筆でなくとも、書き入れの内容は、経書など中国典籍の引用にとどまらず、案語や俗名を含むことから、近世以降の学問の受容や傾向を反映したものであり、十分に意義のあるものと考えている。また、現在申請者が確認できている本書の和刻本(元禄十一年、毛利田庄太郎等刊)は、この狩野文庫本と国会図書館所蔵本(わ123-31、森立之・約之父子旧蔵)のみであり、日本における本書の受容を考える上でも貴重な一本である。 では、本書に書き入れを加えたのはいったいどのような人物であったのか、という問題が今後の大きな課題となる。この問題を解決するために、東北大学附属図書館狩野文庫等、狩野氏の旧蔵書を漢籍・国書を問わず、マイクロフィルムや実見にて調査し、筆跡を比較していく。実際、『狩野文庫マイクロ版集成』に収録されている国書の中には、『草木疏』の書き入れと類似する筆跡を発見することができた(写本『李時珍本草綱目ケイ』狩8-21596-2)。このような書物には、『草木疏』書き入れの筆跡だけではなく、一書のうちに複数の筆跡が見られる場合があり、その他者の筆跡が他書にも見られる。すると、狩野文庫の中でも、それらが元来強いまとまりを有していたことが推測される。このまとまりを検討することによって、書き入れを加えた者の性格等の特定につながるものと考えられる。従って、関係書目の調査やそこに見える藏書印からわかる狩野氏以前の旧蔵者等、対象を広げて調査を進める予定である。 同時に、訓読化を通じて内容を精査する。それによって、学問系統等、書き入れをした者の性格を描き出せるものと考えられる。翻字と訓読は、草部から順次発表したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、当初予定していた九州大学への出張が叶わなかったため、その予算を次年度に使用する。また、本年度の書誌調査において、複写はすべて写真撮影が認められたため、計上していた複写費の利用がなかった。次年度以降の複写費として使用したい。
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