研究課題/領域番号 |
19K13061
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
矢島 明希子 慶應義塾大学, 斯道文庫(三田), 講師 (20803373)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 毛詩草木鳥獣虫魚疏 / 名物学 / 博物学 / 書誌学 |
研究実績の概要 |
本研究は東北大学附属図書館狩野文庫所蔵の『毛詩艸木鳥獸蟲魚疏』(狩2-1794-2、以下『草木疏』)の書き入れを調査し、その他狩野文庫の漢籍調査によって狩野亨吉旧蔵書における『草木疏』の位置づけについて検討することを目的としている。 しかし、2020年度は新型コロナウイルスの感染拡大によって、当初の研究計画のほとんどを断念せざるをえなかったため、予定を変更して日本における『草木疏』の受容について、国書の引用から整理・検討を行った。 『草木疏』は9世紀後半の『日本国見在書目録』に書名が挙がるが、その後しばらく目録類にその名は見られない。本書は『詩経』の注釈書であり、かつ名物学・本草学の分野に多く引用されることから、この分野の国書の中でどのように引用されているのかを検討した。その結果、13世紀後半の『本草色葉抄』における引用は、典拠とする『証類本草』に引かれた『草木疏』の孫引きであり、16世紀に書写された『毛詩抄』は同じく典拠とする『毛詩正義』の引用を孫引きしたものと考えられる。しかし、明末に佚集本が刊行され日本に流入すると、国書の引用の中にも明らかに佚集本からの引用が増えてくる。特に稲生若水の『詩経小識』や江村如圭の『詩経名物辨解』といった『詩経』の名物書ではその傾向が強く現われており、底本には毛晋の『毛詩草木鳥獣虫魚疏広要』が用いられていることが分かった。 以上の内容を「日本における『毛詩草木鳥獣虫魚疏』の受容―国書中の引用に関する調査」として『斯道文庫論集』第55輯に発表した。これによって、本研究が扱う『草木疏』の日本における伝来や受容の状況を確かめることができたが、さらに、これらの引用を確認する過程で、『詩経小識』や『詩経名物辨解』の内容が狩野文庫本の書き入れと深く関わっているのではないかという発想を得るに至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2020年度は、東北大学附属図書館の蔵書を中心に書き入れの筆跡に関する調査を行う予定であったが、新型コロナウイルスの感染拡大により、移動が制限され、多くの機関で入館制限などが実施されたため、ほぼ全ての調査先に出張調査することがかなわず、当初の計画は頓挫してしまった。 制限緩和以降は、狩野文庫の国書を収めた『狩野文庫マイクロ版集成』によって、国会図書館や慶應義塾大学図書館で閲覧を再開したが、マイクロ版では蔵書印や朱の書き入れが不鮮明であり、やはり原本による調査が必要であるという認識を持った。また、漢籍については全く調査が進まない状況となったため、研究の進捗は当初の予定よりも遅れているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は新型コロナウイルスの感染状況を考慮し、東北大学附属図書館など各調査先の方針に従って、筆跡や蔵書群に関する調査活動を再開していきたい。ただし、今後も制限が続く場合は、マイクロ版によって筆跡や蔵書印などからその蔵書群の把握に努める。とはいえ、「現在までの進捗状況」で述べたとおり、マイクロ版は国書のみであり、漢籍については現地での原本調査が必須となる。 また、現地での調査がかなわない場合、書き入れの内容に関する検討を優先して進めていきたい。2020年度、国書における『毛詩草木鳥獣中魚疏』の引用について調査した際に、江戸時代以降の国書は林羅山『多識編』や稲生若水『詩経小識』、貝原益軒『大和本草』、江村如圭『毛詩名物辨解』を用いて『毛詩草木鳥獣中魚疏』の受容について検討した。このうち、『多識編』、『詩経小識』、『大和本草』については、狩野文庫本書き入れにも書名を挙げて引用されており、書き入れの主が参照していたことは明らかである。そして、典拠を示さない書き入れも、『毛詩名物辨解』の内容と近似した記述が見られた。このことから、狩野文庫本書き入れと『毛詩名物辨解』との関係、さらに、書き入れと筆跡が近い『李時珍本草綱目ケイ』(狩8-21596-2、「服部家蔵」「森氏」印記)などとの関係についても検討を進めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、当初計画していた諸機関への調査出張が不可能であったため、これに係る支出を2021年度へ持ち越すこととした。従って、2021年度は調査出張が可能になり次第、2020年度に予定していた調査出張を再開する計画である。
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