研究課題/領域番号 |
19K13064
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研究機関 | 玉川大学 |
研究代表者 |
鈴木 美穂 玉川大学, 文学部, 准教授 (40547915)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 文学 / 批評 / 海外体験 / 西洋文化受容 / ポスト占領期 / メディア / 美術言説 / 小林秀雄 |
研究実績の概要 |
本研究は、ポスト占領期の、文化状況が激変しながら海外渡航制限が続く中での西洋文化受容の問題を、海外体験を経てメディアを通じ、文化の発信源となった、文学者による美術言説に焦点をあてて検討・究明することを目的する。その目的の下、渡航制限下で新聞社特派員として渡欧し、新聞・雑誌を舞台に西洋文化の発信者となった文学者の美術言説(批評・随筆等)を体系的に調査・検討し、実相を究明することで、〈戦後〉文化生成過程解明の研究基盤の構築を目指すものである。 初年度に当たる2019年度は、複数の図書館・資料室を利用し、(1)1950年代の各新聞・雑誌における美術言説と新聞社海外特派員としての活動(2)文学者の海外体験・美術言説についての情報・資料調査・収集を行い、整理を進めることができた。これらは本研究の基礎資料となることはもちろん、ポスト占領期の西洋文化受容のあり方を取りまとめた作業として意義あるものとなると考えられる。 さらに、文学者の美術言説から西洋文化受容を検証するにあたり、(3)文学者の海外体験の実際について、小林秀雄らを中心とした1950年代のフランス体験の現地調査を進めた。その一部、小林秀雄のパリでの美術体験について、渡航制限継続下での海外での実地体験発信の意味と意義の検討を、「〈見る〉ことと〈語る〉ことのあいだ――小林秀雄「近代絵画」初出冒頭を読む――」(『日本文学』2020年2月)として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度である2019年度の主な課題は、研究を進めていくための初期段階での準備態勢を整えること、また、実際に、文学者による海外体験と美術言説を検証する基盤として、渡航制限継続下での海外体験における受容の現場に関する調査に着手することであった。 前者についてはほぼ計画通りに進めることができ、新聞・雑誌における文学と美術をめぐる資料調査・収集・整理を進め、本研究の目的を果たすための基礎作りを進めることができた。また、収集・整理した資料から、今後の見通しも含めて、本研究テーマの妥当性を確認することができた。 後者については、1950年代の文学者のフランス体験調査を含めた、具体的な受容の現場の検証を進めるうえでの見通しをたてることができた。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度の成果をふまえつつ、引き続き、ポスト占領期を中心とする1950年代の各新聞・雑誌における美術言説調査・整理に基づく、文学者の海外特派員派員体制・実態の調査とともに、具体的な分析を進め、文学的言説の特徴と西洋文化受容のあり方を明らかにしていく。さらに、それらが同時代に与えた影響や、それらの言説に通底する問題性などについて、分析を積み重ねていく。 具体的な対象として、既に着手している小林秀雄と瀧口修造を中心としたフランス体験の調査・整理・分析を進めていきたい。そのうえで、具体的な美術批評に即して、美術(体験)の記述行為および美術受容における言語表現の機能を検討していきたい。 本研究では、文学者の海外体験の調査が重要な意味を持つ。2019年度に実施した調査に続き、以降も現地調査も行う予定だが、現在の新型コロナ感染拡大の影響により、2020年度の現地調査実施は困難と予想される。そのため、研究項目の順番を変更し、国内にて可能な調査・検討を優先して行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度予定していたパソコン購入について、所属機関の規定で間接経費を使用することとなったこと、また、研究のための資料購入・資料複写代に、2020年度予定していた額以上必要となることから繰り越しを行った。繰り越し分は、国内での資料購入費・資料複写費(文学・美術・隣接諸領域の和洋文献資料の収集を中心)に使用する。 ただし2020年度の研究費使用に関しては、「今後の研究の推進方策」欄で述べたように、現在の社会状況から、当初計画していた海外での調査は延期せざるを得ないため、旅費相当額を翌年度に繰り越す予定である。
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