研究課題/領域番号 |
19K13067
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
塩野 加織 早稲田大学, 文学学術院, 准教授(任期付) (80647280)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 井伏鱒二 / 翻訳 / 日本近代文学 / 日本語 / 方言 / ルビ |
研究実績の概要 |
本研究は、作家井伏鱒二の文学活動における翻訳の機能と特質を析出し、その翻訳のありようが同時代の社会状況・文化状況においていかなる位置を占めるかを明らかにしようとするものである。まず初年度である2019年度は、井伏作品および同時代に発表された関連作品における翻訳表象を調査し分析することに着手した。その成果の一つとして、井伏の小説「「槌ツァ」と「九郎治ツァン」は喧嘩をして私は用語について煩悶すること」に描かれた呼称と、共同体の共同性創出との相関性を分析した論文を、学会誌に発表した(日本文学協会『日本文学』2019年11月)。また、広島県ふくやま文学館にて、翻訳を通してみる井伏文学をテーマにした講演を行った。 こうした井伏個人の文学活動について調査分析を進める一方で、近代日本における翻訳の理論的検証についても開始した。こちらについては、国際ワークショップ「文化の翻訳」を開催し(本科研共催)、音楽学・演劇美術・医学・文化人類学などの研究者の方々とともに、近代日本における翻訳の営みについて、その課題点や問題点を議論した。また、井伏作品の翻訳と海外普及という観点では、戦後のユネスコ翻訳に関する論考についても研究論集(坪井秀人・瀧井一博・白石恵理・小田龍哉編『越境する歴史学と世界文学』臨川書店、2020.3)に論文を発表した。 結果として、本年度は2本の論文を発表し、招待講演および国際ワークショップでの研究発表をそれぞれ行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、翻訳の機能に関する理論的考察と実証的考察をそれぞれ論文として発表したことで、次年度以降の課題整理をある程度行うことができた。また、国際ワークショップ「文化の翻訳」を共催したことや、ふくやま文学館での招待講演ではアウトリーチ活動も行うことができた点で、初年度としては順調な成果を挙げることができた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、引き続き井伏作品における翻訳表象について調査分析を進めるのと並行して、同時代の翻訳事業についても調査を進めていく予定である。とくに、初年度に資料調査を行った戦後のユネスコ事業と日本国内の動きとの相関性や、出版関係者の果たした役割についてももう少し詳しく探る必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画していた出張(海外・国内とも)が新型コロナウィルス感染拡大のため見送ることになり、その分については次年度以降に再度計画し実施するために繰り越しとした。
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