研究課題/領域番号 |
19K13070
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研究機関 | 椙山女学園大学 |
研究代表者 |
高橋 麻織 椙山女学園大学, 国際コミュニケーション学部, 講師 (80588781)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 生誕儀礼 / 御佩刀の儀 / 疫病 / 怨霊 / 禍福 |
研究実績の概要 |
研究業績は、論文2本である。まず「『大鏡』天変地異に見る歴史意識―怨霊と疫病―」(久保朝孝編『危機下の中古文学2020』武蔵野書院、2021年3月)である。「危機下の中古文学」という編者の提言を受け、現在のコロナ禍を人類史の広い視野から客観視すべく、平安時代における天変地異に焦点を当てた。特に、地震や雷、疫病の流行の原因が怨霊によるものと特定された場合、人々はどう受け止め、どの対処したのか。ここでは、平安時代の代表的な「御霊信仰」である道真の怨霊、元方の怨霊に加え、長徳元年の疫病流行を取り上げ、『大鏡』における描写について考察した。例えば道真の怨霊は時平だけでなく醍醐天皇や東宮など朝廷に祟ったと認識されたが、『大鏡』では祟りの対象は時平一族に限定され、のち忠平一族が政権を握る過程として説明されている。また、長徳元年の疫病は、本来「禍」であるはずの異変が道長にとっては「福」として捉えられている。それは『大鏡』特有の認識であろう。 次に、「『源氏物語』明石姫君誕生時における「御佩刀の儀」―『うつほ物語』いぬ宮の事例を踏まえて―」(『日本文学研究ジャーナル』第17号特集企画「源氏物語を読む」(高木和子・鈴木宏子編、2021年3月)である。『源氏物語』「澪標」巻において明石姫君が誕生した際、父である光源氏から「御佩刀」が贈られることに着目し、歴史資料を踏まえてその儀礼の意義を考えた。『源氏物語』成立以前、女児に御佩刀の儀を行った事例はなく、先行研究は物語成立期より後世の禎子内親王の事例を挙げる。しかし、『源氏物語』に先行する『うつほ物語』いぬ宮の事例が描かれており、虚構の物語の描写ではあるが、これこそ女児の御佩刀の儀の初例である。これを踏まえ、明石姫君がいぬ宮に重ねられることで、両者に共通する入内・立后という将来性が物語展開の布石となっていることを論じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度は、新型コロナウィルスの影響により、前半は学会・研究会が中止となり、後半はオンラインに切り替えられ、研究発表の枠の縮小とされるなど、変更を余儀なくされた。そのため、当初、予定していた東京方面・関西方面への出張は1年をとおしてなくなり、海外のシンポジウム(中国での開催)や台湾への出張も実現していない。 資料調査や論文執筆などは予定通り進んでいるが、新たなフィールドを広げる試みは停滞している。
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今後の研究の推進方策 |
当分、国内外の出張は見込めないので、それ以外の点で、進めていきたい。今年度は、オンラインでの研究会発表などを予定する。オンラインでの研究会・学会には積極的に参加したい。また、現在調査中の「竹河」巻に描かれる玉鬘大君求婚譚について、論文をまとめる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は、新型コロナウィルスの影響により、前半は学会・研究会が中止となり、後半はオンラインに切り替えられるなど、変更を余儀なくされた。そのため、当初、予定していた東京方面・関西方面への出張はほぼ取りやめとなった。また、海外のシンポジウム(中国での開催)や台湾への出張も実現できなかった。これらの理由により、当初予定していた旅費は使用していない。 2021年度も国内外の出張は実現できない可能性が大きいが、書籍購入など、できる範囲で資料調査などに取り組み、研究を進めていきたい。
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