研究課題/領域番号 |
19K13071
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研究機関 | 愛知淑徳大学 |
研究代表者 |
杉淵 洋一 愛知淑徳大学, 教育部門・センター, 講師 (00758138)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 相互扶助 / ヨーロッパ受容 / 日本知識人 / ユマニテ / 日仏交流史 |
研究実績の概要 |
渡欧した日本人達と関わりの深いエリゼ・ルクリュ、ジャック・ルクリュ、巴金といった人物達についての書籍等の資料から、ルクリュ家の人々の現在の職業や動静について、ある程度把握、確認することが可能となり、石川三四郎、芹沢光治良等の研究対象者を中心とする日本人達が、ルクリュ家側に送った書簡等にアクセスする窓口を構築する端緒を開くことができた。 また、秋田県仙北市角館の新潮社記念文学館における現地調査では、ジャック・ルクリュの友人であった椎名其二が装幀し、椎名が晩年、清流出版に贈った仏語書籍が、ロマン・ロラン等とともに「相互扶助」思想が色濃く反映する反戦雑誌である『ドマン』を編集したアン・リネルによって書かれたものであることを確認し、日本への西洋型の「相互扶助」思想の導入について、より具体的な人脈を知ることのできる見取り図を描くことができるようになった。同様に、秋田県秋田市のあきた文学資料館においては、1956年に椎名其二が小牧近江が送った葉書を発見するとともに、その周辺資料からこれまでは知られていなかった二人の関係について文面より明らかにした。 静岡県沼津市我入道の沼津市芹沢光治良記念館においては、椎名其二が芹沢光治良に送った書簡について調査を行うとともに、宛先人不明であったもう一通の椎名其二の書簡が、在仏経験を持つハープ奏者の阿部よしゑに宛てて送られたものであることを突き止めた。この椎名による阿部宛書簡では、パリにおける藤田嗣治等の様子も報告されており、当時の在仏日本人社会の内情を知るうえでたいへん貴重な資料と言えるものである。前者の小牧近江宛椎名其二書簡の内容については、秋田さきがけ新聞の文化欄、後者の阿部よしゑ宛椎名其二書簡については、上記の新潮社記念文学館内で開催された企画展「ファーブル昆虫記を訳した椎名其二」における特別講演会において報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度末(2020年2月、ないしは3月の間に)、一ヶ月弱の予定で渡仏し、研究対象者となる日本人達の当地における動静を検証すること、その日本人と関わりのあったフランス人をはじめとするヨーロッパ人の子孫や関係者にコンタクトをとって、聞き取り調査等を行うことを目論んでいたが、2019年12月より始まったフランス国内のゼネラル・ストライキ、更に、2020年に入ってからの新型コロナウイルスの世界的な拡散に伴い、フランスに渡航して現地調査を行うことが不可能な状態となってしまった。 フランス、またはその周辺のヨーロッパの国において現地調査や当地の研究者を交えてのシンポジウム等の企画を行うためには、新型コロナウイルスの収束を待つ以外に方策は無いように考えられるが、同ウイルス収束後の子細なスケジュールを決定するには、困難な状況が今日に至るまで継続している。また、2019年度末は、同ウイルスの影響によって、日本国内においても移動がたいへん制限されていたため、研究計画の段階において予定していた、国内における調査の多くを断念せざるを得なかった。また、2020年3月頃より、国内外にかかわらず、調査を希望する資料を所有する図書館、資料館、文学館等が軒並み臨時閉館してしまい、資料についての問い合わせさえ行えない状況に陥っており、新型コロナウイルスの影響が長引けば長引く程、本調査の進展に遅れが出てくることが懸念される。
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今後の研究の推進方策 |
世界的な新型コロナウイルスの収束、並びに、それに伴う交通手段等の復旧を待って、フランス、ないしは周辺国における現地調査を速やかに行い、2019年度において生じてしまった研究計画の遅れをとり戻していくことを最優先に考えている。そのため、2020年度については、夏(2020年8月)、春(2021年2月、3月)の二回にわたる現地調査を目的とした渡欧を試みるつもりでいるが、今後も同ウイルスによる影響が継続し、今夏の渡航が難しい場合には、海外での調査を国内でできる現地調査などに切り替えて、できる限り研究計画に遅れが出ないように柔軟に対処していく予定である。 また、今後のヨーロッパにおいて、同ウイルスの拡散に収束の目途がたたなくなったり、長期間にわたって日本からの渡航が制限されるような場合には、研究計画全期間における国内調査の予定をできるだけ早い時期に消化し、国内調査の終了後に残された国外調査に着手するなどして、可能な限り当初の計画を満了することによって本研究を完結させることを心掛けたい。 今後予定されているフランスにおける研究会、シンポジウム等についても、その開催が困難と判断される場合には、会場を日本国内に変更したり、インターネット上での開催について検討したく考えている。国内においても、移動の困難な状態が今後も長期間にわたって続く場合には、国外の場合と同様に、インターネット回線などを用いて聞き取り調査等を行うことも検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度年度末に一カ月程度の期間で計画していた、フランス、並びにその周辺地域における現地調査について、フランス全土において2019年12月より発生したゼネラル・ストライキ、2020年2月以降に深刻化した世界的な新型コロナウイルスの影響で、研究計画において調査を目論んでいた施設等が臨時閉館するのみに留まらず、当地への渡航そのものが困難となり、研究計画書作成の段階で予定していた海外における現地調査のために使用する目的の予算を消化することができなかった。また、日本国内における現地調査についても、調査を予定していた施設が同ウイルスの国内への蔓延のために、臨時閉館や入館制限等の措置が行政側の判断によってとられたり、参加を予定していた学会、講演会、シンポジウム等が中止、延期となったりし、2019年度の予算を翌年度以降に持ち越さなければならない状況が生じてしまった。 そのため2020年の本事業においては、2019年度に消化することが不可能となった国内外における現地調査、延期となった学会等への参加を、2020年度分の予定事業に加えて遂行することによって、2019年度に生じた研究計画の遅れについて、当初の予定への回復を図る必要があり、この回復が必要な部分については、2019年度の事業において未消化となった予算を使用して、研究、並びに調査を実施する予定である。
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