研究課題/領域番号 |
19K13071
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研究機関 | 聖学院大学 |
研究代表者 |
杉淵 洋一 聖学院大学, 人文学部, 准教授 (00758138)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 日仏関係 / 西洋受容 / 人文主義 / 日本知識人 / フランス / 翻訳 / 国際交流 / 文化的相対化 |
研究実績の概要 |
2022年9月5日より23日まで、パリを中心にフランスにおいて、当該の研究についての現地調査を行った。1960年代、70年代のパリの日本人社会について詳しい長期在仏の日本人と接触することができ、当時の在仏日本人たちの人間関係についてある程度実証的な確認をすることができた。 特に、図書館や書店における研究に関連する書籍についての調査では、フランスのアナーキズム史、その背景としての同国内のプロテスタンティズム史にかかわる書籍の内容から、大杉栄、椎名其二、小牧近江等によるアンリ・ファーブルの『昆虫記』の日本語への翻訳には、昆虫に対する単純な興味といったものではなく、社会が円滑に運営される理想的な共産主義型社会のひとつのあり方、つまり人間社会の改良の可能性として昆虫の社会への興味関心が根本的な背景としてあったことを確認した。 これらと並行する形で、日本国内に残存する研究に関連する人物たちの日記、手紙や書籍を調査、分析することから、研究対象人物たちの人的なネットワークについて整理する作業を行った。小牧近江、芹沢光治良等を中心に、彼等の在仏時に動静や、西洋人との個人的なつながりについての新しい発見が複数みられた。 また、コロナ禍も収束の兆しを見せてきたことから、対面による講演会、学会の大会なども徐々に再開され、沼津市立図書館で開催された芹沢光治良研究者の鈴木吉維氏の講演を皮切りに、複数の講演会、学会の大会にも参加し、研究者や関係者と交流することによって関連情報の収集に努めた。 芹沢光治良の在仏時の演劇へのかかわりについて、沼津市立芹沢光治良記念館に保管されている劇作家のガストン・バティに宛てた手紙の下書きの翻訳を行った。関東大震災の際に刊行された『種蒔き雑記』をフランスに紹介した当地の新聞『リュマニテ』紙の8月17、20日付記事における『種蒔き雑記』を扱った部分についても翻訳を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本来は4年間で完結する計画の研究であったが、1年目の終わりに世界的なコロナ禍に見舞われてしまったため、2021年まで海外へ赴いての現地調査ができず、当初の研究計画の予定から実際の研究の進捗状況が遅れていくことに歯止めをかけることが難しい状態となった。そのため、2021年度までに関しては、研究室内や最小限の移動で実施できる研究を優先させて研究を進めていき、それなりの新資料や新事実の発見などをすることができ、その研究成果等については学術誌で公開を行ってきたが、移動制限のない時と比べれば、新しいことを始めることが困難で、仮に始めたとしても研究として成立させられない場合が多く、海外での現地調査を中心に、研究計画の根幹となる部分には手が付けられないまま4年という期間が流れてしまった。 しかしながら、4年目の2022年度は、海外への渡航制限もかなり緩和されたため、3週間ほどフランスへ渡り、当地での実証的な研究を実践することができ、本研究の計画を前進させることが可能となった。2022度の海外における現地調査にはそれなりの成果はあったが、本来この調査は2019年、遅くとも2020年には終了しておきたかったところのものであり、どうしてもこの方面における研究の遅れについては一朝一夕では埋めがたい大きなものとして感じられる。 コロナ禍においては、個人の行動が制限されることが多く、国内の学会への参加もオンラインなどの配慮がなければ厳しいものとなったが、国内に残されているフランス人が日本の知識人に宛てて送った書簡の翻刻や翻訳について、コロナ禍という状況が、その作業を逆に容易にさせたところもあり、こちらの部分に関しては、芹沢光治良の演劇をめぐる内容のフランス語書簡の翻刻内容などには、これまでは知られていなかった部分を明らかにするような発見もあり、計画当初に予測していた以上の進展があったともいえる。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、当初の4年間(2019年度~2022年度)において計画されていた(現在まで未実行の)日本国内、国外における調査について、できる限り実現できるように進めていきたいと考えている。今年度のフランスでの現地調査は8月、9月のうちの30日前後を予定しているが、この調査が終わって日本へ帰国した後には、年度末にかけて数回程度の勉強会、シンポジウム、報告会等の研究成果の発表の場を設けることを念頭に置いている。可能であれば、(コロナ禍等のため日程の調整が難しくなっているが、)渡仏時にも当地の教員等とともに、本研究に沿う形での研究会、勉強会などを催す可能性を探っている。これらの機会に報告される研究成果については、速やかに論文化、ないしは報告書化し、2023年度末、ないしは翌年度のできるだけ早い時期での活字化を企図している。国内の施設での現地調査については、できるだけ時間のロスの出ないように、関連施設と密接に連携を図りながら、やり残しのないように慎重に話を進めていき、しっかりとした形の可視化された研究としてまとめあげたい。 また、当初予定していた聞き取り調査の対象になっている関係者も、コロナ禍の間、移動制限などのために対面での調査を実施することができず、コロナ禍の間に残念ながら亡くなってしまった方もおられ、当初の予定していた形での遂行は不可能であるが、時間の許す限り一人でも多くの対象者から話を伺いたいと考えている。これらの聞き取り調査の結果に基づいて、新たに資料調査を行うことや、さらなる聞き取り調査を行うことを繰り返して、できるだけ精度の高い研究として成就させ、日本という国家における近代の生成について、日本人の渡航によるフランスとの交流の観点から、これまでには書かれることのなかった一面を明らかにすることを最低限の目標として取り掛かりたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請当時に予定していた本研究では、4年間で少なくとも4回、つまり年1回はフランスへ渡り、それぞれの渡仏で約30日程度の日程での現地調査の遂行を試みていたが、2019年後半から世界的に始まったコロナ禍によって、日本から海外への渡航が制限されてしまったため、その間、日本国外での調査を行うことができなくなったという事情がある。2023年度は、パリを中心にフランスでの3週間程度の現地調査を実施することが出来たが、全体の予定からみれば十分な調査期間とは言えず、2023年度も継続して現地調査を行う必要が残されており、そのための予算を確保する必要性もあり、次年度の使用額が生じている次第である。 加えて、コロナ禍による行動制限は海外への渡航だけに留まらず、県境をまたぐなどの日本の国内においても適応されていたこともあり、国内の調査を企図していた施設によっては休館や、来館者の資料の閲覧を全面的に禁止等の措置をとっていたところもあり、国内における本研究の調査にもかなり制限のかかるところがあって、これらの調査についても海外での調査同様に控えていたが、今後、これらのコロナ禍によって控えていた調査を、本研究の終了期間までに再開して実施するためには、当初の予算額の出費は最低限必要であるため、それらの金額をを次年度までに必要な助成金として当該の研究に使用する予定である。
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