研究課題/領域番号 |
19K13081
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研究機関 | 豊田工業高等専門学校 |
研究代表者 |
江口 啓子 豊田工業高等専門学校, 一般学科, 講師 (00824476)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 一位局 / 女性筆者 / 近衛政家 / 古筆伝称 / 古筆鑑定 / 小敦盛 |
研究実績の概要 |
伝一位局筆の伝称のある作品のうち早稲田大学図書館蔵「敦盛絵巻」について諸本比較を行い、絵と本文の特徴から、早稲田大学図書館蔵「敦盛絵巻」が女性の読者に向けて作られたものであり、その制作者も女性である可能性が高いことを明らかにした。その成果に基づき、2021年9月にオンラインで開催された伝承文学研究会の大会にて「『小敦盛』の主題の変遷ー高僧の物語から女人往生の物語へ」という題目で口頭発表を行った。また、この発表を同題目で論文化し、論文は『伝承文学研究』71号に掲載予定である。 また、緊急事態宣言が解除された3月に國學院大学図書館と大東急記念文庫へ調査に赴き、伝一位局筆とされている『さくらの姫君』と『住吉物語』の閲覧・調査を行った。実地調査の行える作品の調査をすべて終えることができた。 さらに、国文学研究資料館の古筆切所収情報データベースに情報のある一位局の古筆切については『古筆学大成』所収の写真を用いることとし、入手困難な図録の写真も国会図書館で調査を行うことでおおよその資料を集めることができた。当初の予定より実地調査を行えた資料は少なかったが、基礎調査を終えることができたため、ようやく伝一位局筆の作品の総体についての分析を行う準備が整った。 『さくらの姫君』については『小敦盛』と同様に諸本比較を行って特徴を明らかにするため、諸本の関連資料を集め、國學院大學図書館からは付属資料もあわせた写真を取り寄せるための準備をしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
伝一位局筆とされる作品のうち、実地調査できるものについてはすべて調査を行い、実地調査が難しいものは写真を取り寄せたり、美術館のデジタルアーカイブスや図録などを用いたりして調査を終えることができた。しかし、各作品の分析は終了しておらず、引き続き翻刻や使用語彙、使用字母の調査を進める必要がある。 また、一位局に関する伝承の調査についても、大学図書館がいまだ学外者を受け入れていない状況のため、国会図書館などへ赴く必要がある。県外出張が可能な折を見つけて資料調査に赴いているが、大量の文献に目を通す必要があるため、調査が十分であるとは言えない。こちらも引き続き、調査を行っていく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
分析を行うための資料調査をようやく終えることができたため、ここからは各作品の翻刻と使用語彙、使用字母の分析を行ってデータベース化し、伝一位局筆とされる作品の総体について検討していくこととなる。まずは『小敦盛』を分析した手法を他の作品の分析にも用い、他の諸本に比べてどのような特徴があるかを明らかにする。そのような研究の積み重ねによって、伝一位局筆とされる作品全体の特徴を解明する。また、各作品に付属している古筆鑑定の資料や古筆手鑑の資料の分析もすすめ、古筆鑑定における女性筆者の意味と、その伝承形成過程についても考察していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
未使用の経費の大半が旅費である。これは第一にコロナ禍のために県外出張に行く機会を持てなかったためであり、第二に参加予定の研究会や国際学会がことごとくオンライン開催となったためである。特に、海外での資料調査を行うことができなかったり、国際研究集会がオンライン化したりしたことは大きい。また、人件費・謝金はデータベース作成のための費用として計上していたが、データベースを作るための資料調査自体が終わっていなかったため、ここに到るまで研究協力者を雇うことがなかった。2022年度も旅費に関しては見通しが立ちにくい。ようやく学会が対面で開催され始めた。このまま感染状況が落ち着いていけば国際学会などにも現地で参加できるかもしれない。そうなれば資料の調査も含めて海外へも出張に行くつもりである。また、資料調査を一通り終えてようやくデータベース作成に取りかかることができるため、2022年度は研究協力者にデータベース作成の補助を依頼する予定である。
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