研究課題/領域番号 |
19K13082
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研究機関 | 国文学研究資料館 |
研究代表者 |
岡田 貴憲 国文学研究資料館, 研究部, 助教 (60822103)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 和泉式部日記 / 更級日記 / 蜻蛉日記 / 板本 / 本文受容 |
研究実績の概要 |
第2年度である2020年度は、主に交付申請書記載の【課題C】【課題D】に関して以下の研究結果を得た。 ・『更級日記』について、近世期の国学者から「古本(あるいは異本)」と呼称されて広く受容されるも、現在は完全に散逸した伝本の淵源を明らかにするべく、「古本」由来の書き入れを存する現存伝本およそ20種の分析を行った。その結果、これらの現存伝本は大きく三つの系統に分かれる派生関係として纏められ、その淵源は当時江戸・大坂でそれぞれ入手することのできた非現存板本に遡ることを推定した。また、『更級日記』諸本については現在確認できる39本のうち閲覧可能な35本の調査を完了し、それらの祖本たる藤原定家筆御物本からの直接書写にかかる数本を除いては、いずれも本文異同を有していることを確認した。中でも大規模な本文異同を持つ小汀本をめぐって、従来は現在所在不明の不二文庫本のみが同系とみなされていた所、新たに同様の本文異同を共有する伝本を見出だすに至った。 ・『蜻蛉日記』について、国文学研究資料館の新収資料である近世期写本の本文調査を行った。同伝本は、上巻の全体、および中下巻の各中途までを合わせて一冊とする特異な形態をもち、各巻がそれぞれ異なる本文系統に属すると考えられるが、とりわけ上巻相当部分の本文については、従来知られている系統の傾向には当てはまらない、独自の脱文傾向があることが確認された。 このほか、【課題A】に関わる内容として以下の研究結果を得た。 ・平安時代物語・日記文学における感染症をめぐる描写について博捜し、『枕草子』や『栄花物語』にみられる「世の中騒がし」という表現が、いわゆる作り物語にも全く同様に用いられ、かつその場面形成が現実の感染症記録に取材している可能性のあることを指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、資料所蔵機関の閲覧・複写等の停止が年度を通じて続いたため、当初閲覧または複写物の取り寄せを予定していた資料について調査を行えない状況が生じた。このため、悉皆調査に基づいて発表すべき研究結果については年度内の公表を断念することとなり、2020年度は予期していた成果の創出を行えていない。ただし、感染症をテーマとした一般書への執筆機会を得たことにより、本研究課題のうち第1年度の進展が不十分であった【課題A】に関わる内容を論じることができたため、進捗の遅れは最小限に留められたものと評価する。
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今後の研究の推進方策 |
第3年度は、引き続き新型コロナウイルス感染症の影響が予想されるため、資料調査やマイクロフィルム・デジタル画像未作成資料の新規複写については基本的に実施できないと見込まれる。そのため、現在利用可能な研究資源に最適な課題として、『蜻蛉日記』の伝本系統についての既存マイクロフィルム・デジタル画像を用いた分析を優先的に実施する。また、第2年度に公表を断念した研究結果についても、今後感染症の影響がさらに長引くと考えられる場合には現状についての報告を行い、本研究課題の成果の一環とする。このほか、課題実施を通して新たに発掘し得た重要伝本について翻刻紹介を行うことで、本研究課題の再検証に供することとする。
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