研究課題/領域番号 |
19K13082
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
岡田 貴憲 九州大学, 人文科学研究院, 准教授 (60822103)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 和泉式部日記 / 更級日記 / 蜻蛉日記 / 写本・版本 / 受容 |
研究実績の概要 |
第3年度である2021年度は、主に交付申請書記載の【課題B】【課題C】に関して以下の研究成果を得た。 ・『和泉式部日記』十月条にみられる「情けなからず」という表現の解釈に際し、同五月条において寛元本・応永本系統にみられる異文「情けなからじ」を参照することで、三条西家本に依拠する従来の注釈が是正されることを示し、寛元本・応永本『和泉式部物語』の表現世界が作品読解に有用となることを明らかにした。 ・『更級日記』の現存伝本についての悉皆調査がおおむね完了したことを踏まえ、特に鎌倉期書写とされる小汀本と、現存伝本の祖本である御物本との間に本文対立が発生している箇所を中心に、本文の分析を行った。その結果、現存伝本の大半は御物本以降に位置する二次祖本に由来する可能性が推定でき、その本文分岐は鎌倉期に発生していたとみられることを明らかにした。 ・前年度に行った『蜻蛉日記』臼田甚五郎文庫本の本文調査を基に論文を成稿し、『語文研究』第132号(2021年12月)に公表した。同成果は、臼田甚五郎文庫本が『蜻蛉日記』の古本系伝本のうち吉田本・山脇本のみが知られていたC系統に属することを明らかにするとともに、同本がC系統のより上位に位置することを論じたものである。 ・前年度に行った『更級日記』古本関係諸伝本の分析結果を基に論文を成稿し、『国語国文』第90巻第8号(2021年8月)に公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、当初閲覧または複写物の取り寄せを予定していた資料についての調査状況は依然として芳しくないが、今年度中に入手した資料によって、【課題C】における『更級日記』の本文派生関係については一定の見通しを立てられる状況に至っている。また、『和泉式部日記』に関する依頼原稿の受諾を通して【課題B】について進展が得られたほか、【課題D】についても来年度中に論文化予定の課題を設定しており、研究計画全体としては昨年度に比して十分な進捗がみられている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度においては、新型コロナウイルス感染症による資料調査への影響がなお見込まれること、および研究の総括に向けた取り組みを要することから、単著『王朝仮名日記本文考(仮)』の刊行に向けた準備を中心的に実施する。同書は、『和泉式部日記』『更級日記』『蜻蛉日記』に関するこれまでの成果を整理・統合し、かつ新規論文を含んで構成するものであり、前者については今年度の分析結果に基づいた論文成稿と加筆修正、後者については特に横山由清による日記文学受容の様相を由清自筆資料によって明らかにすることを、それぞれ来年度の計画としている。
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次年度使用額が生じた理由 |
資料調査のための旅費を計上していた所、新型コロナウイルス感染症の影響により実施不可能となったため、論文執筆用の参考図書購入に予算内訳を変更し若干の残額が生じている。当初予定の資料調査については次年度に実施するため、全額を問題なく使用できる見込みである。
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