研究課題/領域番号 |
19K13083
|
研究機関 | 国文学研究資料館 |
研究代表者 |
安岡 佳穂子 (井黒佳穂子) 国文学研究資料館, 古典籍共同研究事業センター, 特任助教 (90743104)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 御伽草子 / 異類婚姻譚 / ジェンダー |
研究実績の概要 |
古典文学には多くの変身が描かれる。異類が人間の姿に化けたり、人が本来の性とは異なる姿になることで、「種」や「性」の境界を越えて、新たな共同体へ加わろうとする。中でも狐は美女の姿をとることが多く、人の社会と積極的に関わってきた動物であり、人と狐の異類婚姻譚は日本や中国の古典文学に数多く現れ、親しまれてきた。 本研究では中世から近世前期にわたって作られた絵巻・絵入り本から、狐の異類物を中心に採りあげる。御伽草子『玉水物語』は、異類から人へ、男から女へという、二重の越境を果たしている点に注目できる。本研究では『玉水物語』を題材に、種と性の越境について検討したい。 現存する『玉水物語』の諸本については、一〇点の所在が確認されているが、全てが翻刻や影印本があるわけではない。刊行されているテキスト、マイクロフィルム、図録、画像データベースなどから、テキスト・絵画の両方を収集し、狐に関するイメージ・データを蓄積したい。特に絵については一部のみの掲載や、モノクロの場合もあるため、本研究では所蔵機関へ直接調査に赴き、絵の全体を撮影したいと考えている。 既に奈良絵本を多数所蔵する京都大学付属図書館、天理大学付属天理図書館へは直接赴いて資料調査を行った。こうした直接の調査と並行して各データベースの画像なども収集・整理を行っている。今後もイメージの形成に大きく寄与したと推定される作品や、写本については調査へ赴き、所蔵者の許諾が得られれば、撮影なども行い、より詳細な検討も加えたい。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回の調査で、『室町物語時代物語大成』の翻刻では反映されていない箇所を発見した。また『玉水物語』と『紅葉合』は、内容面においては大まかな共通点が多いものの、細部では異同もあり、より詳細に諸本を比較する必要性があるだろう。現在はこうした内容面の比較を中心に、テキスト研究を行っている。 また、2019年9月7日(土)に開催されたジェンダー研究会(於専修大学)にて、「『玉水物語』にみる種と性の越境ー『ちこいま』との共通点ー』というテーマで口頭発表を行った。現在判明している『玉水物語』の伝本状況を紹介し、大まかな概要を示した上で、類似の構造を持つ作品として『ちこいま』という作品を取り上げた。両者が異性装を用いて姫君の元に潜入するという手法や、その過程において母代わりの人物が大きな役割を果たしているという類似点と、結末の違いについて論じた。今後は先に述べたテキストの比較について発表する予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
年始より全世界的に爆発的な広がりを見せる新型コロナウィルス感染症の流行により、三月頃より調査資料を所蔵する大学、図書館、資料館などの各種機関が閉鎖してしまっている。日本での流行から半年経過した六月の現在であっても各種機関は閉鎖されたままであり、今後、開館の目処もたっていない機関も見られる。 今年度も直接の資料調査、ならびに撮影を考えていたが、それらの予定を立てることが全くできず、当初の研究計画通りに進まないおそれがある。しかしながら、この国難に当たっては予断を許さず、政府、各機関の対応に従って行動し、当初の研究計画を見直し、規模の縮小や変更も含めて検討しなければならないかもしれない。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究課題に関連する書籍の購入において、想定していた額より安価で購入できたもの、入手不可となっていたため購入を断念したものがあったことにより、未使用額が生じた。次年度に引き続き関連書籍を購入するため、未使用額はその経費に充てることとしたい。
|