研究課題
若手研究
本研究では御伽草子『玉水物語』の特色を明らかにすることを目的として、作中における種と性の越境について検討した。従来「異類物」に分類されてきた『玉水物語』は、異類から人へ、男から女へという、二重の変身を果たしている。この二つの変身について、「異類婚」と「異性装」の観点から分析し、類似の構造を持つ説話や御伽草子、中世王朝物語と比較した結果、『玉水物語』は中世王朝物語や「公家物」に分類される御伽草子の影響を受けており、「しのびね」型の構造に近い物語であることが明らかになった。
日本中世文学
『玉水物語』は「しのびね型」の物語構造の中に、異性装と狐女房譚のモチーフを取り込むことで、身体的な性と社会的な性を描き分け、これまでにない多様性の物語として成立しており、しばしば類型的と批判的に評価されてきた御伽草子の豊かさ、現代の創作にも通じる姿が認められたことは大いに意義があると考える。