中国古典学の研究手法によって、今日も書の名人として尊重される王羲之あるいはその書跡を文化的に価値づけてきた言説に批判を加えた。第一に、王羲之は衛夫人という女性に師事したことがあると伝える文献資料を精査し、そのような伝承の成立過程について仮説を提示した。第二に、王羲之の代表作『蘭亭』の履歴を伝える唐の著作『蘭亭記』を伝奇テクストとして分析し、そのユニークな点を指摘した。第三に、王羲之の代表作『蘭亭』をめぐって唐から宋にかけて交わされた種々の伝承について、書跡としての流通・伝播の様態と対比しつつ考察した。
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