研究課題/領域番号 |
19K13087
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
上原 究一 東京大学, 東洋文化研究所, 准教授 (30757802)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 中国文学 / 書誌学 / 官刻・家刻・坊刻 / 覆刻・翻刻 / 書坊 |
研究実績の概要 |
本研究は、明末清初の出版における官刻・家刻・坊刻それぞれの実態を把握し、それらが互いにどのように絡みあっていたのかを解明することを目指すものである。 当初計画していた出張調査が2019年度末からの新型コロナウイルスの流行によって全く行えなくなってしまっため、研究計画を大幅に見直し、当初は2020年度が最終年度となる予定であったが、期間を1年延長していた。しかし、出張調査が不可能な状況は全く改善されなかったため、期間を更に延長することとした。 年度内の成果は、論文1件と口頭発表2件である。論文は藤本幸夫編『書物・印刷・本屋――日中韓をめぐる本の文化史』(勉誠出版、2021年6月)に収録された「明末清初の坊刻における江西の位置付けについて」で、2019年2月に公刊された英語論文「On the Position of Chiang-hsi in Commercial Publishing in the Late Ming and Early Ch’ing」(『ACTA ASIATICA』第116号)に若干の補訂を施した上での日本語版であり、先行研究では明代に官刻や家刻は盛んであったのに坊刻が盛んにならなかった地域とされていた江西について、実は明代後期の南京の商業出版の主たる担い手が江西人であったことや、通俗医書や戯曲小説といった売れ筋コンテンツの作者や校訂者にも江西人が多かったことを指摘した、本研究計画の出発点となったものである。 口頭発表はいずれもオンライン開催の学会でのものとなったが、「再談虎林容與堂的出版活動」と「『水滸伝』諸版本の挿画について――容与堂刊本を中心に――」 と題する2本を行った。いずれも17世紀初頭に杭州で精緻な挿絵を伴う小説・戯曲を多く刊行した書坊として名高い容與堂の主人や活動、及びその刊本の特色について論じたものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画していた出張調査を実施することが2019年度末からの新型コロナウイルスの流行によって全く不可能となってしまい、2020年度から研究計画を見直し、研究期間を1年延長の上で購入した書籍やデータベースによって可能な範囲で調査を進めたが、その範囲だけで研究成果をまとめるには限界があるため、状況の改善に期待して研究期間の更なる1年延長を申請してお認め頂いた。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画通りの出張調査を行うのが極めて困難な状況が続いていたため、2021年度は調査が可能な機関の所蔵資料や、影印本やデータベースソフトの購入によって基礎的な調査であれば済ませられるような資料から調査を進めて、その範囲で得られた知見を形に出来るように努めた。明末清初の出版における官刻・家刻・坊刻それぞれの実態を把握するという本研究の趣旨を全面的に達成するのは難しい面はあったが、17世紀初頭の杭州の書坊容與堂の活動状況を中心に、坊刻の特徴や官刻との関係についてそれなりの知見が得られつつある。 今後はそれらの成果を論文にまとめることを目指す。出張調査が行えそうな情勢になれば可能な限り実行して資料の不足を補いたいが、当初計画していた調査先の全てに行ける見込みは低いので、得られた資料の中で論じられることに論点を絞ってまとめるように努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画していた出張調査を実施することが新型コロナウイルスの流行によって依然として不可能であったため、書籍やデータベースを購入してそれらを利用して可能な範囲の研究を進めたが、やはりその範囲だけでは限界があるため、状況の改善に期待して2度目の延長申請をしてお認め頂いた。残高は少額であるが、出張が可能になった場合は旅費の一部に充て、なおも難しそうであれば関連書籍の購入を検討する。
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